限定メニュー「禁断の果実」、その禁断のお味は?

編集長・吉田と手分けしながら、怒濤の3杯との長い闘いもようやく終わりが見えてきたかに見えたそのときだった。
 

「はい、あとこれもね」という声とともにカウンターに置かれた新たなるどんぶり。

何ということだ、1日約50食の大人気限定メニュー「禁断の果実(750円)」の登場である。ボスの後にラスボス現るというのは、こういった流れにおいては充分考えられることではあったが、ここにきてもう1杯という展開があるとは思いもよらなかった。

仕込みの最中、カネシ醤油に柚子など5種類の柑橘類ほかいろいろな材料を入れポン酢風に仕上げたタレでつくる、その名の通り「禁断の果実」の話を聞いて、何て美味しそうなんだろうと話し合ってはいたものの、さすがに2人で4杯じゃ胃袋が爆発しちゃいそうですね、と断念したはずの「禁断の果実」がまさに禁断のタイミングで現れたのだった。
 

 

限定なのは、風味と酸味が飛ばないよう2台の炊飯器で仕込んでいるためである。

すでに胃袋は容量ギリギリだったが、禁断の果実の甘い誘惑に、気づくとレンゲはスープをすくっていた。

 

デフォルトのスープと比べると透明感があり、さらっとした感じだが果たして。

ああ、ここにきてこのスープは最高だ、と思わず歎息(たんそく)が洩れるほどのやさしい味わいが口に広がり、そして甘酸っぱい匂いが鼻を抜けていく。もちろんやさしいながらも濃厚さは健在で、麺、豚、野菜が空腹をあり余るほど満たしてくれること請け合いである。

ただしやはり編集長・吉田と力を合わせてとはいえ、すでに小ラーメンと冷やし中華、辛麺を食べている胃袋は、目の前の美味しそうな「禁断の果実」を前に、あきらかに箸の動きを遅くしはじめていた。

そのときである。「禁断の果実」のどんぶりが自動的に移動しはじめたのだ。ゆっくりと動くどんぶりを目で追っていくと、鼻歌まじりに伸びてきた箸の持ち主は秘密兵器、編集部・山岸であった。
 

 

ひょいと麺をつまむと、軽やかに口へ運んだ。「ああ、これ美味しい」そう声をあげると、次から次へと麺が口のなかで吸い込まれていく。ついにわれわれは『スパルタンX』よろしく、3人で闘う仲間となった。主人公はもちろんラスボスと闘うジャッキー山岸である。

 
 

 


拡大画像表示 額や頬から滴り落ちる玉の汗と、激闘を制さんとする男の魅力的な表情

「ほう、ならばサモ・ハンの意地を見よ」と出演兼編集長の闘いも終盤に入る。ジャッキーの登場で「禁断の果実」は順調に減りはじめた。編集長・吉田はついに最後の豚を頬張った。頬張るとウイニングランとして、「禁断の果実」の味見を要求した。
 

 

しかし、大量のカプサイシンでも燃焼しきれないほどの小麦粉を抱えた男は、ひと口食べるとおもむろに箸を止め、張りのある球面を誇らしげに見せつけた。

 

「僕はドッジボールが1個入ってる感じです」「ふむ、まあまあだな」
 

 

その横で「この豚、リンゴみたい」とはしゃぐジャッキー山岸。

ちなみにスープを口に含んだとき、天使のような微笑みを浮かべた少女が脳裡をよぎったような気がしたが、実はそれはあながち間違いではなかった。

「禁断の果実」の別名は「さのちゃんラーメン」という。大塚さんによると「さのちゃん」はかつて「豚星。」に来店した神奈川大学の学生で、「超かわいいからまた会いたい」というさのちゃんへのオマージュとして生み出されたのが、果物をふんだんに使った「禁断の果実」だったのだ。

「豚星。」にやってくるのはノーガーリックノーライフな猛者たちだが、さのちゃんオマージュである「禁断の果実」はニンニクを入れないメニューとして考案したので、ノーガーリックでも食べてみてほしいそうだ。

そして童顔でショートカットのさのちゃん、至急「豚星。」へ向かってください。