横浜山手中華学校の教育革新
潘校長のお話を伺い、世界的にも珍しい東洋言語でのバイリンガル教育を体系化しようという試みとその熱意の強さに、横浜山手中華学校の魅力があるのだと納得した。さらに、横浜山手中華学校ではバイリンガル教育の基礎に「能力開発教育」を取り入れているのだという。
能力開発教育とは、教師が従来の授業のように教えるという作業が全体の3分の1ほどで、残りは子供たち個々に習ったことを復唱させ、自分で考えさせるというものだ。生徒同士、時には教え合い、意見を交換し、自分の知識として定着させるという。
いわゆるゼミナールで見られる状態だ。教師は生徒個々のその時の能力に合わせ、考える力をつけさせながら知識の定着を図る。つまり、生徒個々の能力に制限をつけないということだ。さらに掲示教育などもより充実させ、子供たちの発意も促していこうとしている。
クラスの友達の作文や作品を見て、その違いを自分で感じ自身の能力を理解させる。それは、問題発見能力や問題解決能力を身につけるという教えにも通じるのだろう。
これらの授業は日本の学校ではなかなか実践できていない教育法だ。一部の私立学校で行われ、相当な成果を出しているが、公立学校では施設、教員数、教員個々の能力などの問題でなかなか実践出来ないでいる。
横浜山手中華学校はこのようなハイレベルで最先端な授業をこれから実践していこうというのだ。
生徒たちの学力の動向がますます注目されることになるだろう。
教育という視点で見る中国との関わり
現在のところ、台湾系か大陸系かという違いの両校の校風だが、今後は日本人を含む外国人生徒の割合が校風に大きな違いをもたらすように感じる。前出した横浜中華学院は、教室数の関係で現状では募集人数を増やせないようだが、1クラス36人定員を将来的には2クラス72人に増やし、校舎の増改築も視野に入れているという。
横浜の中華学校の日本人児童数は確実に増えている。それは中国の国際競争力の強化に注目した日本人の単なる先物買いだけが理由ではなく、グローバル化する世界に目を向けた中華学校独自の教育方針に魅力を感じたからなのだろう。
横浜にある2校の中華学校はともに、中国と日本のネイティブを並列的に学習するカリキュラムを持ち、これに英語を加えたトリリンガル教育においてはほかの外国人学校に例を見ない画期的な教育システムを持った学校であることが今回の取材で明らかになった。
また、一般的なインターナショナルスクールが年間150万円ほど、日本の私立中学が平均45万円ほどの費用が必要といわれるのに対して、両校とも授業料は月換算2万円台。年間30万円程度の費用で通学が可能なのだ。100年を超える中華学校の歴史からOBの援助があると学校側はともに語るが、学校経営に関しても日本人に好感が持たれていることは間違いないだろう。
横浜は古くから華人学校を持つ街だ。そして古くから中華文化が根付いている街でもある。今後中国の国際的な影響力が増すにつれ日本人児童の入学希望はさらに増していくだろう。横浜にある2つの中華学校はそれぞれの校風に合わせて、懸命にそのニーズに応えようとしている。これは横浜という街が、古くから華人を受け入れ、ともに発展してきた証なのではないだろうか。
横浜は教育という点からも中国、台湾との交流を深くし、今後さらに発展していくことだろう。
今後も両校の日本人との関わりが注目される。
※本記事は2010年12月の「はまれぽ」記事を再掲載したものです。