横浜山手中華学校の場合

新校舎外観。近代的な造りで、学校には見えない
潘民生校長
 

横浜にあるもう一つの中華学校はどうだろうか?
2010年4月にJR石川町駅前に新校舎を移転したばかりの横浜山手中華学校、潘民生校長に話を伺った。

潘校長は、日本人児童の入学希望が増えているのですか?という質問に対し、まずは現状を知ってほしいと、次のような話をされた。

現在日本の在日外国人数は200万人と言われるが、そのうち中国系は70万人。この数はすでに在日韓国・朝鮮人の数を上回り、在日外国人数第1位なのだという。そのうち義務教育の就学者数は約2万3千人。すでに日本国籍を取得している「華人」を加えるとさらに多くなるという。

しかし、日本には中華学校が横浜2校のほか東京、大阪、神戸の5校しかない。横浜山手中華学校はこの状況に配慮し、1クラス36名の募集だったものを3年前から2クラス72名に増やしたが、とても応えきれるものではないというのだ。そのような状況で、現在の純粋な日本人の就学割合は5%程度なのだという。

児童の作品が展示されている多目的スペース
言語に触れる機会の一つとして、中国語に翻訳された日本の漫画も置かれている
 

これは、先の横浜中華学院の33%と比べると非常に少ないように思うのだが、その理由は横浜山手中華学校の入学募集方法にある。小学一年生の募集要項を見ると、三段階方式で募集していることが分かる。第一段階、第二段階では、在日華僑・華人児童、もしくは在校生の弟妹、卒業生の子・孫のみが募集対象になる。

その後、定員の72名に達しなければ第三段階で日本人児童も応募できるという訳だ。
それでも、日本人児童の入学希望問い合わせや転入希望は増えていると潘校長は話してくれた。

 

横浜山手中華学校の目指すバイリンガル教育

小学2年生の中国語の教科書

やはり、横浜山手中華学校に入学を希望する理由もその教育方針にあるのだろうか?引き続き潘校長に伺った。

最も大きな特徴は1998年にその方針を強化したバイリンガル教育だという。小学校から日中両言語によるネイティブ授業を行っているのだ。小学校の算数は中国語、中学校の数学は日本語、理科は日本語、日本の社会科は日本語、中国の社会科は中国語と科目によって言葉が使い分けられている。

そうすることで、中国語は中国語で考える、日本語は日本語で考える習慣がつくことになる。つまり、単なる言語教育ではなく思考方法も各言語で行わせることで、言語感覚を完全なものにしているのだ。

日常生活も論理的思考も知識の集積も、それぞれの言葉で、同時進行で身につけていけることが同校カリキュラムの独特なところ、また特別なところなのだ。それぞれの言語に対して、聞く、話す、読む、書くの4つの項目の習得をバランス良く目指そうというわけだ。

 

日本語の漢字の書き順を教わっている。同じ漢字でも日中で、書き順が違うのだ

取材中、校長室の電話が鳴った。潘校長は「失礼」と断ってそれを取った。どうやら中国からの電話のようで、突然流暢な中国語で会話を始めた。それまでの日本語から驚くほど見事な使い分けが行われている。話し終えて、「私も日本で生まれ育った中国人です。中華学校を経て日本の大学に進学しました。

日常生活の中でも日本語、中国語の切り替えは全く不自由がありません。そんなバイリンガルを育成するのが私の学校なのです」と胸を張った。横浜山手中華学校は、東洋の言語を中心にした完璧なバイリンガル、トリリンガルを目指した学校なのだ。