――オープニング主題歌の『少女はあの空を渡る』は、壮大なオーケストラサウンドと、シンガーである福本莉子さんの無垢な歌声がとても印象的です。
岩崎:最初は主題歌をやる予定ではなかったんです。しかし、主題歌をやって欲しいとなりまして、「歌い手」になっていない女の子がいいという思いは持っていたんですね。その後に、色々と縁もありまして、福本さんに歌唱をお任せすることになりました。
福本さんは当時はまだ歌い手という感じにはなっていなかったのですが、凛々しい声の持ち主で、17歳というとても特別なタイミングでもありました。子どもではなく、かといって大人にもなりきっていない声というのは、もしかしたら数年後には彼女自身も失ってしまうかもしれませんし、それを活かしたいなと思いました。
――経験を重ねれば、歌の技術も磨かれていきますし……。
岩崎:そうです。もっと磨かれてハッキリした歌を歌うようになるかもしれない。変な言い方ですが、危うさみたいな部分も含めて、今の瞬間を借りるようなつもりで、彼女にオファーしたというような感じですかね。
樋口真嗣の挟持を感じるオープニングアニメーション
――主題歌に加えて、オープニングアニメーションも曲のタイトルがテロップで表示されたり、最近の作品では珍しい大きめのフォントが使用されているなど、こちらも特徴的です。あのアニメーションを観て、どう思われましたか?
岩崎:最初に観た時に、「これは、樋口真嗣総監督の挟持のようなものだな」と感じたんです。今のアニメーションは、三ヶ月で何十本と新作が作られる世界ですが、そういう中にあっても、良いものを大切にしようとする総監督自身の想いを受け取った様な気がしました。
僕が勝手に思っているだけですが、樋口総監督は無意識に、「本当にちゃんとしたアニメ作品というのはかつてこうだったよ」というのをノスタルジックに表現したいのではなく、自分自身の良い作品に対するイメージを具現化するように作っていると感じました。実際、フォントなんかも相当にこだわっていたそうなんですよね。
――個人的には、あのオープニングアニメーションを観て、一種の"郷愁"のようなものがテーマとしてあるのかなと思っていたのですが、例えば、曲作りに関してもそういったニュアンスを意識していたわけではないんですか?
岩崎:全然ないですね。ノスタルジーという部分でいったら、観ている人たちの中に何となくあるイメージのトリガーを引いただけだと思います。
オーケストレーションにしろ、福本さんの歌声にしろ、メロディにしろ、そういった音の要素をノスタルジックなものに振ったわけではなくて、それらを組み合わせると、それがノスタルジックに聴こえる人もいるという風に作っているだけで、直接的にそういったニュアンスを作りたかったわけではないんです。
――では、エンディング曲なのですが、フランス・ギャルのカヴァー曲(『恋の家路』)が使われていますね。このユニークな選曲は、どういった経緯で決定したのですか?
岩崎:最初は、エンディング曲をエピソード毎にどんどん変えたいという希望があったんです。毎話、ボーカルが変わるようなデュエットでやりたいという気持ちもあって。
その時は曲も決まってなかったんですけど、樋口総監督が「この曲は、どう?」って持ってきたのが、あの曲だったので、こちらも「え!? フランス・ギャルですか?」みたいな(笑)。
そんな感じで、あの曲も凄く自然体で決まったんです。「話題作りをしよう!」みたいな考えは一切無かったですね。
――極々、自然体で決定した感じなんですか?
岩崎:皆さん、あの選曲に対して、色々と想像力を膨らませてくれるんですけど、これが、本当に余計な意図は一切無いんですよ(笑)。例えば、あの曲に対して、時代性なんかを絡めて色々と考察をしてくれる方もいらっしゃるんですが、実は、何にも無いという。
――編曲を行う上で、何か特別に意識された部分はあるのでしょうか?
岩崎:それに関しては、少しありますね。特に大きいのは、管楽器を加えたことと、ベースラインをかなり動かしたことです。原曲と聴き比べても、そんなに印象は変わらないと思うんですが、いじるところは大きくいじっています。リズムパターンは全部違いますし、ただ、曲全体の印象は変えないようにしようと。