主人公リスベット役には、アン・ハサウェイ、キャリー・マリガン、エレン・ペイジなど、ありとあらゆる有名若手女優が殺到した。最終的に役を獲得したのは、比較的無名のルーニー・マーラ。彼女は『ソーシャル・ネットワーク』に端役で出演しているが、それが理由ではなかったとフィンチャーは主張する。
「よし、『ソーシャル・ネットワーク』の最初のほうに出た子にするぞ、なんて思ったわけじゃないさ。『ソーシャル・ネットワーク』で、あの小さなシーンを二晩撮影した時に、彼女の才能に感心させられてはいたけどね。正直言って、彼女がオーディションにやってくるまで、彼女のことは考えていなかった。僕らが求めていたのは、心に大きなダメージを受けた女性になりきれる女優だった。僕らは彼女にリスベットのコスチュームを着せ、リスベットの上司やソーシャルワーカーを相手に、どんな態度を取るのかをやらせてみた上で、判断したんだ」
原作には、過激なレイプのシーンが登場する。三部作を通じて、重要な意味を持つ出来事だけに、あのシーンを避けることは許されない。
「この物語は、たしかに醜い要素も含む。醜い秘密が潜んでいる。だけど、みんなが“この本のレイプシーンがすごいんだよ” と言って薦めたから原作がベストセラーになったんだとは思わない。僕もまた、醜い要素に惹かれてこの映画を作ったわけではない。その一方で、躊躇もしなかった。そういった問題を、映画館という安全な環境で経験するのは、重要な事柄について話し合うきっかけを作る上で、むしろ良いことだと僕は思う。

 僕はこの映画を政治的な映画だとは思っていない。フェミニスト映画なのかどうかも、正直言ってわからない。原作者が生きている時に考え続け、答えを求め続けたあらゆる問題がそこに反映されてはいる。とりわけ、彼は、世の不公平に関して怒りを抱いていた。だからあの本は社会現象になるほどヒットしたんじゃないかと思うんだ」