これまでの「5年ルール」と、制度改正後の「10年の壁」について

制度の改正前までは、会社の退職金とiDeCoを両方ともお得に(なるべく税金がかからないように)受け取るための「定石」のようなものがありました。それは、

(1) IDeCoの一時金を先に受け取り、

(2) そこから「5年」空けて、会社の退職金を受け取る

という方法です。

例えば、(1)60歳でiDeCoを活用して蓄えた資産を「一時金」で受け取り、(2)65歳で勤めていた会社から退職金を受け取れば、両方で「退職所得控除」をフル活用でき、税金を大きく抑えることができました。

iDeCoの一時金と退職金を受け取る期間を「5年間」以上開ければ、「退職所得控除」が復活するというルールを活用したものです。これは投資家の間では「5年ルール」と呼ばれていました。

しかし、2025年度の税制改正により、このルールが大きく変更され、2026年1月以降は、この間隔が「5年」から「10年」へと大幅に延長されました。

つまり、iDeCoを一時金で受け取ってから「10年以内」に会社の退職金を受け取ると、2つの非課税枠(退職所得控除)の期間が「重複している」とみなされ、会社の退職金にかかる税金が跳ね上がってしまうのです。これが、現在話題となっている「10年の壁」です。

【シミュレーション】10年の壁にぶつかると、税金はどう変わる?

では、この「10年の壁」ができたことを知らずに、これまで通り「5年間隔」で一時金と退職金を受け取ってしまうと、税金によってどれくらいの損をしてしまうのでしょうか。

以下のような会社員を例に、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。

前提条件:

・勤続43年(22歳〜65歳退職と仮定)

・iDeCo加入期間は20年(40歳〜60歳まで積立)

・60歳でiDeCoを一時金で受け取り、65歳で会社の退職金(2400万円)を受け取る

【旧ルール(5年ルール)の場合】

60歳でiDeCoを受け取ってから5年経過しているため、65歳時点で受け取る退職金2400万円に対して、勤続43年分の非課税枠(2410万円)がそのまま使えました。

よって課税される金額は

(2400万円−2410万円)÷2=0円

(計算結果がマイナスの場合は、ゼロ円あつかいとなる)

よって、退職金から引かれる所得税・住民税は、「ゼロ」となります。

【新ルール(10年の壁)の場合】

2026年以降、退職所得控除をフル活用するには、一時金と退職金の受け取り時期を「10年」空けなければならないため、60歳でiDeCoを一時金で受け取ったあとに65歳(5年間隔)で退職金を受け取った場合はNGと判断され、退職所得控除は満額復活しません。

iDeCoに加入していた20年間がそっくり「重複期間」とみなされ、退職金の非課税枠(2310万円)から、20年分の枠(800万円)が差し引かれてしまいます。

その結果、退職金に対する非課税枠は2410万円-800万円=1610万円に減ってしまいます。

よって課税される金額(退職所得)は

(2400万円−1610万円)÷2=395万円

ここから引かれる税金(所得税・住民税)は、以下の通り計算されます。

所得税:(395万円✕20%-42万7500円)✕1.021=37万112円

住民税:395万円✕10%=39万5000円

合計:76万5112円

受け取るタイミングを工夫しなかっただけで、支払う税金が約80万円も増えてしまう(手取りが減ってしまう)ことになります。

老後資金として大きな役割を果たす退職金が、税金で減ってしまうことは避けたいですね。