『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』、『火の鳥』など、数々の名作を残した漫画家・手塚治虫氏。そんな同氏の作品の中で、ひときわ異彩を放つのがニヒルなユーモアが散りばめられた奇作や怪作。今回は手塚作品400冊をそろえるスマホサイト「Tezukanizer」で見つけた珠玉の作品を紹介していきます。

作者自身がセルフパロディー!
ネコ版アトムが活躍する『アトムキャット』

手塚治虫氏の代表作『鉄腕アトム』。「7つの威力」を持つ少年ロボットのアトムが活躍する、言わずと知れた名作漫画です。実はこの作品には、作者の手塚氏自身によるセルフパロディーが存在することをご存じでしょうか?

作品の名は『アトムキャット』。『鉄腕アトム』に憧れる少年・つぎ夫の拾った野良猫が、交通事故をきっかけに宇宙人に改造されてサイボーグ化するというトンデモ展開なギャグ漫画です。

本家のアトムには「目がサーチライトになる」や「お尻からレーザーガンが撃てる」といった個性的な特殊能力が備わっていましたが、それに比べるとアトムキャットは少しばかり地味。見た目は割とネコそのものですし(毛並みのモフモフ感に関しては◯)、主な戦闘スタイルはネコパンチと爪での引っかき攻撃と決定打に欠けます(笑)。

ある場面では、「夜こそネコの天下!」と得意気に叫びながら夜空を飛び回るアトムキャットの姿が確認できるので、ネコだけに夜目はきく様子。でもこれはサイボーグならではの特殊能力というよりは夜行性動物に元来備わっている能力ですね(笑)。

とはいえ、足から出る強力なジェット噴射やネコ離れした怪力は、本家のアトム同様にかなり強力。ジェット噴射の炎で敵を燃やし殺す容赦のない一面も……。作中では、『鉄腕アトム』のコミックスを読むつぎ夫が「7つの威力」に関して、「なんかせこいなぁ」なんて呟く場面もあり、手塚氏の自作に対する自嘲が見え隠れして笑えます。

この作品が描かれたのは、漫画家として栄華を極めた手塚氏の晩年期。手塚氏はユーモアいっぱいに描き上げたこのセルフパロディー作品にどんな思いを込めたのでしょうか。