『ブラック・ジャック』よりもある意味黒い医療漫画『きりひと讃歌』
手塚治虫氏の医療漫画といえば、まず初めに頭に浮かぶのは、かの名作『ブラック・ジャック』でしょう。医師免許を所持していた手塚氏が描く架空の奇病の数々は、妙にリアリティーがあって鳥肌がたったものです。
しかし、手塚氏が残した医療漫画は何も『ブラック・ジャック』だけではありません。むしろ『ブラック・ジャック』以上にリアルな医学界の闇を描いた作品があるのです。
その作品の名は『きりひと讃歌』。『ブラック・ジャック』が世に出る約3年前に小学館の『ビックコミック』で連載された成人向け漫画です。
手塚氏が大阪大学医学部をモデルに描いたというこの作品では、権威に溺れて道理を見失った医学者達の醜い闘争が「これでもか!」というほどにドス黒く描写されています。
そしてこの物語の核となるのが、体が徐々に犬のように変形していってしまう奇病「モンモウ病」です。医師でありながら、自らもモンモウ病に感染してしまった主人公・小山内桐人(きりひと)は、その奇異な容姿から周囲に差別と偏見の目を向けられ苦悩します。
作中では、あらゆる逆境や辺境を跳ね除け、未知の奇病を解明すべく奮闘する桐人の姿が描かれており、獣の肉体に変貌しても人として歩むべき道を踏み外すまいとするその信念に胸が熱くなります。
ここで思い出したいのが、先に紹介した『日本発狂』で描かれていた、死してなお「人としての尊厳」を主張する幽霊達の姿。この二作に共通する「肉体や生死の枠組みに縛られない尊厳の在り方」は、手塚作品の根底に流れるひとつのテーマなのかもしれません。
漫画でありながら、時に文学作品のような哲学的な気づきや教えを与えてくれる手塚作品。誰もが知る名作の陰には、あなたの知らない手塚治虫の一面が隠れているかもしれません。
ご興味のある方は、ぜひここで紹介した奇作や怪作を手に取ってみてください。
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