蓬莱閣の3代目で、接客担当の王(おう)さんが取材に応じてくれた。
蓬莱閣は1960(昭和35)年に、山東省出身の王さんの祖母が開店。店名は山東省にある同名のお寺にちなんで名付けられたものである。北京出身ではないのに北京料理という看板を掲げたのは、開店当時は日本人の山東料理へのなじみが薄く、隣の県の北京の名前を使った方が親しみやすかったからだろうとのことであった。
創業者の祖母はすでに亡くなり、現在は王さんのお父さんとお兄さんが厨房を、王さんが接客を担当している。
『むかしの味』の中で池波氏は、蓬莱閣で蒸し餃子、水餃子、醤牛肉(ジャンニウロウ:牛スネ肉の冷製)、酸辣湯(サンラータン)、炒飯などを食したと記している。さっそく注文しようとしたところ、王さんから「餃子コースを頼めば、炒飯以外のすべてが楽しめますよ」というアドバイスをいただいたので、今回は餃子コース(1人前1600円、2人前から)と単品で炒飯(830円)を注文した。
最初に出てきたのは醤牛肉。
ほどよい醤油味に八角の風味が見事にマッチした、お酒のつまみでもメインの一品としても楽しめる味であった。
続いては酸辣湯が出てきた。
シイタケ、豆腐、タケノコ、鶏肉、香草と具だくさん。街でよく見かける酢辣湯にはラー油がかかっているが、あれは日本人向けにアレンジされたもので、本場の酢辣湯は今回食べたような酢と黒胡椒だけで味付けしたものだ、とのことであった。
最初は「普通の具だくさんスープ」という感じだったが、食べ進めていくにしたがって、酢と黒胡椒で体がだんだん温まっていく。それに辛くないので、どんどん食べ進めることができる。お腹も温まり、食欲が一気に増した。