早速コーヒハウス ザ・カフェにお邪魔して、池波氏が飲んでいたアイス・ティーを飲んでみることにした。
非常に香り高く、味わいが濃い。そしてとても口当たりがよく、おいしさが体の中に溶け込んでいくような一杯だった。
エッセイによれば、池波氏はアイスクリームも食していたとのことであったので、こちらも食してみることにした。
シンプルなバニラアイスだが、上品なバニラの甘さと濃厚なミルクの風味が、なめらかな舌触りを通じてしっかりと伝わってくる。最近ではなかなか出会えない、なんとも懐かしい味だった。
和田さんによれば、アイス・ティーもアイスクリームも、開業当時に提供していたものとなにひとつ変わっていないとのことであった。今でも開業当時と同じ調理方法で、開業当時と同じ味付けをし、開業当時と同じようにひとつひとつ手作りで作っているそうだ。ホテルニューグランドを訪れたすべての人が、年代に関係なく楽しんできた、80年以上愛され続けている伝統の味なのだ。
アイス・ティーを味わっていると、和田さんが「ホテルニューグランドには、訪れた作家たちが好んで食べるハヤシライスがあります」と教えてくれたので、こちらも食してみることにした。
牛肉とマッシュルームがたっぷり入っていて、味付けも非常にしっかりとしているが、食べていて全く重さを感じない。トマトの優しい酸味が食欲をそそる、お腹にやさしい味わいのハヤシライスであった。多分池波氏も、この味を堪能していたことだろう。
ハヤシライスを食した後に、6代目料理長の長谷信明(ながたに・のぶあき)さんからお話を伺うことができたので、おいしさの秘密を聞いてみた。
長谷さんによれば、ベースとなるデミグラスソースは牛すじ、玉ねぎ、ニンジン、トマトなどをじっくり煮込んでから裏ごしし、足りなくなった分をまた作って足していくという作業を何度も繰り返し、4~5日間かけて完成させるとのことであった。
こうしてできたデミグラスソースにホテル発祥のオリジナルナポリタンソース、赤ワインなどを組み合わせ、ホテルニューグランドのハヤシライスを作り上げていくそうだ。
最後に長谷さんに、ホテルニューグランドでの仕事に対する思いを伺ってみたところ「開業当時から変わらない調理方法で、同じ味を手作りし続けているのですが、今でもお客様から『美味しい』と言ってもらえます。年代に関係なく『美味しい』と言ってもらえる、これは本当にすごいことだと思います。これまでに積み重ねてきた歴史を大切にし、いつもお客様に『美味しい』と言ってもらえるように頑張っていきたいです」と答えてくれた。
長谷さんの真摯な受け答えを聞いていると、ホテルニューグランドがこんなにも長く愛さ
れ続けている理由が分かったような気がした。
長谷さん、お忙しい中ありがとうございました。