そして最後に、炒飯の登場である。
しっかり炒めてパラパラにほぐれているのに、炊きたてのご飯のようなもっちりとした食感が見事に残っている。こんなに美味しい炒飯を筆者は初めて食べた。池波氏が「この店の炒飯は旨い」と言い切った気持ちがとてもよく分かる一品だった。
紹介されていた料理を一通り食べたが、いずれも本当に美味しいものばかりであった。食後に料理を作ってくれた王さんのお兄さんにもお会いすることができたので、どのような点を工夫しているのか伺ったところ「特別なことはせずに、親から教わった当たり前のことを当たり前にやっているだけです」とのことであった。
当たり前のことを当たり前にやる、簡単そうだがなかなかできないことである。それが毎日できる蓬莱閣は、本当に素晴らしい店であった。
歴史を積み重ねたアイス・ティーとドライ・マティーニ
続いては『食卓の情景』の中で紹介されている、山下町のホテルニューグランドで味わえる2品を紹介しよう。池波氏は横浜に来た際にはホテルニューグランドに宿泊し、港町のさまざまな場所を歩いて回ったそうだ。
ホテルニューグランドは1927年(昭和2年)の開業。横浜の名所として小説、映画、歌などにも数多く登場し、その名は全国に知られている。
今回はホテルニューグランド広報室支配人の和田聖心(わだ・せいこ)さんにご協力いただき、さまざまなお話を伺わせていただいた。
池波氏が「ほんもの」と認めていたのが、ホテルニューグランドの喫茶室で提供していた「アイス・ティー」である。池波氏が来店した当時の喫茶室はもう残っていないが、現在は本館1階の「コーヒハウス ザ・カフェ」で同じものが味わえるとのことであった。