20分でどこまで話せるのか

――実際、20分でどんな話がどこまで話せるのでしょうか。

 高「内容にもよりますが、AにしようかBにしようかといった迷いを持った方、たとえば復職の時期をいつにするかだとか、決めなくてはいけないことが日常にはありますよね。

そういう方の場合、うまくいけば20分で結論が出て、スッキリします。最低限でも、気持を出せてホッとするとか、なにが問題か整理されて、やるべきことが見えてくる場合が多いです」

――それは話を聴いてもらうだけで、そうなるのでしょうか。

高「もちろん、ただ聴くのではなく、時には質問したり、要約したりもしますが」

――そうやって伴走してくれるのですね。

高「人って、頭の中で考えているだけでは、本当はどうしたいかという自分の感情や気持ちに気づきにくいんです。頭の中や紙に書き出す時って、感情と分離して考えているんですよ。けれど、人に向かって話す時、言葉を発している時は、感情が動きやすいんです。

口に出してみて、”あ、これはないわ”ってわかったり、実感として”こわい!”って思えたり、自分の感情や自分の変化に気づきやすい利点があります」

――たいてい、考え事って黙って一人でしますよね。悩みはまったくの一人では解決しにくいものが多いのでしょうか。

高「そういうものが多いと思いますね。

リスナーは、話し手の変化に寄り添って聴きますから、変化を感じた時に”なにかいやだなって気持ち、ありました?”と聞いてくれたり、“どうなるのがこわいと思ったんですかね?”という風に話し手の感情を深める為の合いの手を入れてくれます。

話し手はそれで、“私、本当はこれがいやだったんだ、でもそれを乗り越えるにはこうすれば大丈夫”と結論を明確に出しやすくなるんです」

――意見やアドバイスを受けることなく、自分で結論を引き出せるのですね。

普段は味わえない“聴かれ方”とは?

――利用者の中には、悩みはないけれど、ただ話を聴いてもらいたいという人もいるのですか?

高「そうですね。友達と話すよりも、話を途中で奪われないので、20分しっかり、たっぷり話せて満足度が高いようです」

――なるほど、たしかにママ友同士だと相手にもよりますが、話をする人と聴く人のバランスって偏ってくることがありますよね。それに、人の悪口や愚痴を言いたくても、言う相手に気をつけないといけませんし。

高「そうですね。身内の愚痴なんかは、関係者に言うと、あとあと角が立つこともありますし、言ったのにわかってもらえなかったらショック、という場合もありますよね。

リスナーはどんなネガティブなことを聴いても、それに共感しながらもニュートラルに聴くトレーニングを受けていますから、安心してどんな悪口でも愚痴でも言ってくださって大丈夫ですよ」

――すごいです。聖人ですか? と思ってしまうのですが(笑) ほとんどの人にとって、途中で話を遮られたり、意見を言われたりすることなく20分話を聴いてもらうという経験は、日常ではあまりないと思います。

高「そうですね、この聴き方を経験したことのない人にとってはなかなかだと」

――感動すると思います(笑)

高「そして、もちろん私たちにも愚痴やネガティブな感情が湧きます。そういう時は、リスナー同士でもお互い聴きあっています。

最初は愚痴だったとしてもこの聴き方で聴いてもらっているうちに、“これは愚痴では終わらない大事な話なんだ”と気づけることも多いので、利用者の方の話も大事に聴けるんです」

最初から最後まで主役は話し手

――ちょっとした愚痴から、その糸をたどっていったら、実は大きな問題が見えてくることもあるのではないでしょうか。

高「そうですね。愚痴は言ってはいけない、と思い込んでいた人が口に出してみて問題の大きさに気づくこともあります。その気づきはネガティブな情報ではなくて、“こんなに大事なことはほっておいてはいけないな”というすごくその人にとってプラスの展開につながる情報だと思うんですね」

――話を聴いているうちに、利用者に本当にカウンセリングが必要な深刻な悩み、たとえば、DVや虐待などの問題を抱えていることがわかってきた場合、どうするのですか?

高「特にこちらから専門の機関などをご紹介することはありません。話が整理されていくと、利用者の方の方から、専門の相談窓口に行ってみようかしら、という言葉が本人から出てくる場合があります」

――あくまでも決めるのは話し手本人、ということなのですね。

高「リスナーは、相談に乗る人ではなく、話し手がどうしたいかを話し手の気持ちに寄り添って聴く人なんです」