佐野眞一が今年1月に刊行した『あんぽん 孫正義伝』、かなり好評である。
実売推定にして、すでに10万部を突破、もはやベストセラーだ。この『あんぽん 孫正義伝』、とにもかくにも面白い!
佐野は本書の一文において「これまで出された、孫正義のどの本よりも100倍面白い」と述べている。
たしかに、そうである。そして、過去の佐野眞一作品と比較しても、これまたかなり面白いと言えよう。
ノンフィクションが面白いノンフィクションになる、それもかなり面白くなるにはいくつかのセオリーがある。
①まずは、素材が面白いこと。
②続いて筆者が、素材を綿密に調べ、吟味して、素材の魅力をさらに引き出すこと
③書き手が素材に気遣い気遅れせず、素材を大胆に扱うこと。
『あんぽん 孫正義伝』は、まず素材がいい。孫正義が文句なしの素材であることは言わずもがなだが、それにもまして孫ファミリーの面々がねぇ……すごい、なんともすごいんだな。
あの孫正義を凌いじゃう、キョーレツキャラ揃いなのである。まさに魑魅魍魎の一族。奇人変人野人オールスターファミリーだ。
胡散臭くて、濃くて、そしてパワフル。世界の珍味ぜーんぶ、揃えました! ってな感じなのである。
そして、佐野眞一。佐野はねぇ……佐野は調べるのよ、とにかく佐野は調べる。
ゲットした素材がいかに美味しい素材であっても、佐野はすぐ食いつかない。まずは徹底してチェックするのだ。
つまりは裏取り。裏取りを重ねに重ね、本当に使える素材かどうかをチェツクする。そしてついには隠し味までをも引き出してしまう。
『あんぽん』での、佐野眞一もそうである。
孫家の歴史を調べるためなら、孫一族が暮らすの地元・九州への突撃訪問は当たり前。アポなしも日常茶飯事だ。
さらには孫家のルーツ・韓国へも軽やかにすっ飛ぶ。しかも頻繁に、しかも都市部はおろか、ど田舎までも繰り出していく。
孫正義をして「佐野先生、ほんとよく調べますね」と言わしめるほど、佐野の調査力は圧巻である。
さらに、佐野がすごいのは、素材、つまりは取材対象者に容赦しないことである。
孫正義とそのファミリーに何度も何時間も取材協力させてるにも関わらず、容赦しない。
書きたいことは書く、叩くときは叩く。原稿を読んで怒りくるった人間がいようが、てんで気にしない。
美味しい素材の獲得と綿密な裏取り、仕上げに容赦なき味付け。
これらのハーモニーがあってこそ、面白いと言われるノンフィクションが出来上がりるのである。
さて、佐野眞一の話に戻そう。
編集者、業界紙記者を経てフリーのノンフィクション作家となった彼だが、80年代に刊行した本は5、6冊。
ノンフィクション作家人生は、当初はかなり苦労したようである。しかしながら、90年代に入ると徐々にブレイク。
1995年『巨怪伝』、1997年には『旅する巨人─宮本常一と渋沢敬三』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞、そして翌1998年の『カリスマ』、さらには2000年『東電OL殺人事件』でその名を不動のものとした。
以後今日まで、トップランナーとして、幅広いテーマで骨太なノンフィクションを発表し続けている。
共著を入れるとゆうに50冊を超える佐野作品ではあるが、中でもおススメ本をテーマ別に紹介していこう。
企業人および企業ノンフィクション
『カリスマ 中内功とダイエーの「戦後」』
『カリスマ』……『あんぽん』が好きなら、こちらもどーぞ。中内功&ダイエーの栄枯盛衰の歴史をなんと20年以上も! 恐ろしいことに20年以上もかけて追っかけまくったシロモノである。20年も追っかけられた中内さん、同情するッス。根負けするよね……。だからディテール濃し、そして細かし。単行本もいいけど、文庫は増補改訂版です。こちらのほうを読むほうがいいね、やっぱし。
『巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀』
『巨怪伝』……佐野のターゲットとなったのは、読売新聞、日本テレビ、巨人軍を創設し君臨した、マスメディアの巨人であり怪人・正力松太郎。正力松太郎とは、あの濃ゆいナベツネこと渡邉恒雄の100倍濃ーくした人です。高度経済成長、渇くことなかった大衆の富と娯楽に対する欲望を煽って煽って、吸って吸って吸いまくり、己の欲望を満たしまくった男のどろ~っとした一代記。