「一線を超える」覚悟
それから、ふたりはLINEのIDを交換し、プライベートでも連絡を取り合うようになります。
お互いの趣味や休日の過ごし方など、会社では深く話せないことも気楽に打ち明けられるようになり、AさんにとってBさんはかけがえのない存在になっていきました。
でも、Bさんに「旦那さん、大丈夫?」と訊かれたら適当に返すことが多いそう。
「どうして? せっかく話を聞いてくれるのに」と聞くと「Bさんとの会話で夫が出てくるのが嫌なの。ふたりのことを楽しみたいし……」とAさんは答えました。
好きな気持ちが募る一方で、夫への嫌悪感はさらに増していきます。口をきくのも嫌で顔を合わせる時間を減らすようになり、まさに「家政婦から仮面夫婦になったみたい」。
BさんはそんなAさんの気持ちに気づいているのか、もしくは夫のことを語りたがらないAさんを心配したのか、「もし嫌じゃなければ、今度ふたりで食事でもどう?気晴らしになるよ」と誘ってくれます。
「Aさんは悪くないよ、こんなに頑張っているのに」「俺には素敵な女性だよ」と、Bさんからかけられる言葉はAさんにとって大きな救いであり、またつらい家庭を忘れられる大切なものでした。
「Bさんも私を好きでいてくれるなら……」とAさんはもっと深くつながりたい気持ちを抱きます。
会社で会えばみんなに見られないところでこっそり頭を撫でてくれたり、お昼にはふたりぶんのお弁当を買ってきてくれて一緒に食べたり、そんな時間が、どんどん「浮気」へと傾く心を止められませんでした。
でも、「一線を超えたら、もう戻れないのよね」とAさんはまたため息をつきます。
夫以外の男性と深い関係を持つことは、夫への裏切りです。たとえそこに罪悪感がなくても、巻き込まれるのはBさん。既婚の女性と不倫しているなんてことは、Bさんにとって何も良いことはありません。
その「常識」が、Aさんの心をかろうじて留めていました。
浮気や不倫に逃げても問題は解決しない
結局、AさんはBさんへの恋心を諦めました。
「夫を見ているとね、ばれないだろうなとは思うの。でも、そんなコソコソと隠れて付き合うような関係、多分楽しくないし、Bさんが嫌になって離れていくほうが怖い」
これがAさんの今の本音です。
手を伸ばせば、Bさんは応えてくれるかもしれない。でも、本当にそれでいいのか。そのときは幸せな気分になれても、結局自分は家庭に帰るのだし、「それはフェアじゃない」。
Bさんをひとりの男性として尊重するからこそ、Aさんは不倫の道を捨てました。
夫のストレスは確かにつらいけど、それを家庭の外で発散したって、何も解決しません。本当にBさんとお付き合いしたいならまず自分が離婚するべきだし、そこまでの覚悟がないなら、まずAさんがやるべきことは、夫に自分の気持ちを理解してもらうことです。
Bさんとの出会いは、決して悪いことではありません。夫以外の男性と親しくなる機会は誰にでもありますが、そこで「人の道に外れた関係を選ぶか、改めて自分を振り返るか」、ここでその後の人生が大きく変わります。
Aさんは、Bさんだけでなく自分のためにも、改めて夫と向き合うことを選びました。
「Bさんが本当に心配してくれたから、勇気が出たの」と、Aさんは涙の滲む笑顔で答えます。
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どんな理由があれ、不倫は許されることではありません。
チャンスがあったとしても、簡単に流されてしまうのは相手にとっても決して良い結末にはならないことを、夫以外の男性を好きになったときは考える必要があります。
いま、自分がしなければいけないことは何なのか。
浮気や不倫ではなく、自分にとって本当に正しいと思える選択を、苦しいときこそ考えたいですね。