こだわり6:想定外の出来事をプラスに!

4人がクリープハイプのライブを観ることができるのか否かは映画を観てのお楽しみだが、クライマックスは彼らの本物のコンサートに押しかけて撮影した。

©2015『私たちのハァハァ』製作委員会

「しかも、あれはクリープの全国ツアーの最終日なんですよ。絶対に無理だと思っていたんだけど、尾崎君に頼んだら、“ニュースになるからいいよ”ってOKしてくれて(笑)。もちろんコンサートのお客さんには内緒だったから、中には怒っていた人もいたかもしれないけれど、それもリアルな反応だし、前作の関係性があったから、やっちゃおう! ということになったんです」

池松壮亮が『自分の事ばかりで情けなくなるよ』に続いて出演する岡山のシーンも、自然が作品に味方をした前半の味わい深いシーンになっている。

「岡山のあの男を誰に頼もう? と考えたとき、単純に池松くん、最近売れてきてるな~と思って(笑)。

逆に、ほかの人を登場させるとヘンに意味がつくような気がしたので、無理あるスケジュールだったけど、お友だちとしてお願いしました。神戸のキャバ嬢を演じてくれた中村映里子さんも、同じように、クリープハイプの『エロ』というPVに出てもらった縁で出てもらいましたね。

でも、池松くんとさっつんがキスするシーンの撮影では台風にぶつかって。本当に土砂降りだったけど、ちょうど彼女たちが心折れるシーンだったので、画的には最高のものが撮れました」

こだわり7:いまを生きている人たちに向けて作りたい

衝動や感覚を大事に、自分にしか作れない新しい映画を生み出したい! ここまで読めば、『私たちのハァハァ』にはそんな松居監督のすべてが凝縮されていることが分かるはずだ。

「大人たちが懐かしんで作った青春映画をリアルだと肯定し続けていたら、いま実際に青春をしている人たちは何を観たらいいんだろう? と思っているんです。だから、僕はいまを生きている若い人たちに向けて映画を作っていきたいし、そういう傾向になっていかないと、ジジイがずっと映画を作り続けて終わるような気がしていて。それでは困るから、流れを変えたいんですよね」

その言葉はどんどん映画の本質を突くものに変わっていく。

「映画は俳優の人気や力などではなくて、作品の面白さが多くの人に伝わり、広がっていくのが理想だと思うんです。

『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭に参加したときにそれを実感したんですけど、映画祭の観客は監督の名前や作品に対する期待を何よりも重視していて、“あの監督のこの作品が面白いらしいから、観に行こう!”というスタンスなんですよ。そういう噂が広がっていく文化が、映画本来のあり方だと思うんですけどね」

©2015『私たちのハァハァ』製作委員会

状況を“変える”ために、これまでにも“自分たちの映画”はコレだ! というものを提示してきたが、なかなかうまく行かなかった。

「僕が作る映画は、大人たちからわりとなかったことにされることが多くて。たぶん僕が大人のために、映画好きの人たちのために作ってないから、理解できないのもあると思います。でも、無視され続けると生きづらくなるというか、心が折れるじゃないですか? 実際に心が折れて、新しい挑戦をやめてしまった若い方もいて、それって最悪なことです。繰り返しになりますけど、“〇〇風”な映画が“〇〇風”として当たったりする現状は絶対によくないですよ!」

その一方で「インディーズの映画を、コアなファンを中心とした小さなコミュニティでぐるぐる回している状況も意味がない」と言い切る。

「メジャーでもインディーズでもどっちでもいいと思うんですよ。作品の大小は関係ない。要は人気俳優が出ていなくても、人気コミックが原作でなくても、いい作品はいいし、面白い作品は面白いわけだから、そんな境界線はなくしたいですね」

すべては“いま”を生きる“私たちの映画”を作るために!

『私たちのハァハァ』はそんな松居大悟監督の大いなる野望の序章なのだ。
ひとりでも多くの人がスクリーンで目撃し、その追い風になって欲しい。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。