アニメ業界の裏側を描いた胸が熱くなるお仕事小説!

『ハケンアニメ!』(辻村深月/マガジンハウス)

さて、4冊目にご紹介したいのは、アニメの世界に携わる20代・30代の3人の女性たちを描いた作品『ハケンアニメ!』(辻村深月/マガジンハウス)です。

雑誌「an・an」で連載されていた頃から話題となっており、CLAMPの印象的な表紙が目を惹く本書、もう読まれたことがある方も多いかもしれません。

「ハケンアニメ!」はアニメ業界を舞台にした連作小説です。
「ハケン」とは「覇権」のことで、そのクールで作られたたくさんのアニメの中で、一番成功したもの、人の心を打ったものに使われる言葉なのだそうです。

プロデューサーの有科香屋子(ありしなかやこ)、監督の斎藤瞳、アニメーターの並澤和奈。
物語では章ごとに3人の女性の視点を変え、どういった仕事を、何を考えながら取り組んでいるのか、詳しく描かれています。

筆者はお恥ずかしい事に、「ハケン」に「派遣」の字を当てはめてしまったほど、アニメには詳しくないのですが、本書は一つの「お仕事小説」として、胸に熱いものが込み上げてくる物語でした。

きつくて、苦しくて、儲からなくて、何日も家に帰れなくて、ボロボロになっても「アニメが大好きだから」誇りを持って、苦しみながらも何度でも立ち上がって、前を向いて仕事をする女性たちが描かれています。

「誰かの心のより所となる作品は、こんな優しい人たちの手で、たくさんの愛情を込めて作られているんだ……」と感じた、とても素敵な小説です。そしてほんのり、恋模様も描かれていて、ドキドキしました(笑)。

歯を食いしばって、誇りを持って仕事を頑張る女性たちに、ぜひ読んで頂きたいです!

私はどこで間違えた? 環状八号線沿いに住む女性たちの切ない恋物語

『感情8号線』(畑野智美/祥伝社)

最後にご紹介したいのは、東京・環状八号線沿いの6つの街で起こる、切ない恋物語『感情8号線』(畑野智美/祥伝社)という連作短編小説です。

登場するのは、20代・30代の様々な立場の女性たちです。

例えば荻窪在住の真希は、女優を目指す劇団員をしているのですが、劇団の方はあまり上手くいかないまま、彼女がいるバイト仲間に片思いをしています。

また、真希のいとこ・芙美は、二子玉川在住で、憧れだった高級マンションに暮らしながら専業主婦をしているのに、夫の浮気に悩んでいます。

そして、上野毛在住の里奈は、美人で仕事も出来るアラサー女子なのですが、なぜか恋愛だけが空回りして、気がついたら不倫をしていました。里奈は、プライドが高く、他の女子に負けたくない気持ちが大きい女性なのですが、実は人知れず「このままでは一生一人になる」「生きていけるとしても、一人ではいたくない」と、アラサー女子のベタな悩みを抱え込み、不安になっていました。

アラサー女子って、同い年であっても、一人一人を見れば、皆驚くほど境遇が違いますよね。結婚している・母親になっている・独身でキャリアウーマンをしている・不倫に悩んでいる……。

ある人から見ると、死ぬほど手に入れたいと願っている、幸せそうな環境で生きている女性も、この物語に登場する人は、み~んな不安を抱え、悩んでいました。

結婚したって夫の不倫に悩まされていたし、何も問題がなく新婚生活をスタートさせた女性も、元彼に再会すれば心は大きく揺れていました(笑)。

田園調布在住の、大学を卒業したばかりのお金持ちのお嬢様も、劇団員の男性を好きになったため、自分と住む世界の違いを感じて悩んでいたのです。

人生に、ただしいルート・正解なんてものはないのかもしれません。結婚してもしなくても、人生には迷い、悩み、傷つかないといけない大きな壁が、次々に用意されているようです。

だから、私たちにできることは、自分で選んだ道を信じて、前を向いて進んで行くことだけなのだなあ……ということを、しみじみ感じたお話でした。

様々な立場の女性の視点から「アラサーをどう生き抜くか?」を考えることができます。

皆様、今回ご紹介した小説5冊、いかがでしたでしょうか?何か気になる小説はありましたか?

毎日精一杯頑張っている女子の皆様の支えになれば嬉しいです。良かったら、読んでみて下さいね。

 京都府在住の26歳。三度の飯より本が好きで、またそのレビューを書くことを何よりも愛している。毒のある本やミステリーが好き。主に「読書」の分野で記事を書いています。いつでもアワアワしているフリーランスのライターです。 Blog