ときどき無性に食べたくなるものがある。
その代表選手が、いなり寿司だ。
もっとも身近で、どこにでもありそうなのに、なかなかうまいいなり寿司がない。
おそらく子どもの頃、母が運動会のときなどに作ってくれたお稲荷さんの味を
舌が記憶しているせいで、どこのを食べても
「これは違う」とダメ出しをしているような気がする。
筆者の母は群馬の出だったこともあり、甘辛のお稲荷さんだった。
そのせいか関西風の上品ないなり寿司は、舌が受けつけない。
寿司飯がばざばさないなり寿司も、好きになれない。
いなりあげの汁をたっぷりと吸い込んだ寿司飯でないと、満足できないのだ。

筆者のように、甘辛い汁をふくんだいなり寿司が大好きな人におすすめしたいのが、
横浜に店を構える『泉平』の「いなりあげ」だ。
家内が油揚げを煮てくれないので、拙宅ではもっぱら泉平のを愛用している。

泉平を教えてくれたのは、森田昭一郎さんだ。
森田さんは岡山県倉敷にある『平翠軒』のご主人で、
平成2年の創業以来、全国のうまいものを扱ってきた。

森田さんの奥さんが泉平のいなりあげでいなり寿司を作ってくれたのだが、
ひと口食べた瞬間、泉平ファンになった。
泉平のいなりあげは、母のお稲荷さんの味にそっくりだった。
塩っぱそうだが、塩分はほとんど感じない。
「いなり寿司なんて子どもの食べ物だ」という人もいるが、
泉平のいなりあげで作ったいなり寿司は、大人の舌も満足させてくれる。