みなさんは「メンタルローテーション(心的回転)」をご存じでしょうか。これは、頭の中でモノが回転する様子をイメージする能力。IQテストで問われる能力の一つでもあります。

紙に書かれた二次元の図形を上下左右に反転させるものから、3D(三次元)の物体を回転させる高度なものまで、バリエーションはさまざま。子どもの頃、サイコロの正しい展開図を選ぶ問題や、図形を回転させてできる立体を選ぶ算数の問題に手を焼いた人も多いのでは?

実は、この「メンタルローテーション」能力を鍛えることは、単に算数の成績を上げるだけにとどまりません。

論理的思考や問題解決力、ユーモアを理解する能力、さらには相手の立場に立つ「気遣い」や「共感」に必要な能力などさまざまな可能性を秘めるといい、わが子にもぜひ身につけてほしいものなのです。なんと、音痴な人はメンタルローテーションが苦手、という研究も報告されているのだとか。

善は急げ! この能力を楽しみながら鍛えられる“パズル本”『メンタルローテーション “回転脳”をつくる』を出版した東京大学薬学部教授・池谷裕二(いけがや・ゆうじ)先生に、幼児期の子どもの遊びの中で「メンタルローテーション」を伸ばす身近な方法を伺いました。

そのヒントは、子どもの遊びに身近なあのアイテムや遊具にも隠れていました!

赤ちゃんにも備わっている「メンタルローテーション」

「私も含め、『メンタルローテーション』の定義をゆるやかに捉える研究者は、この能力で“知性”や“社会性”がかなり広く説明できる、と考えています」と開口一番説明してくれた池谷先生。

今年5月にも、アメリカの学術誌で“幼児期にメンタルトレーニングを鍛えると、大人になってから算数や数学がよくできるようになる”という趣旨の研究論文が発表されるなど、子どものメンタルローテーションに関する研究も徐々に活発化しています。

人間の知性にかかわるさまざまな分野に役立つ「メンタルローテーション」。ヒトの場合では生後3カ月ごろから芽生え始め、努力によって鍛えることができるのだそう。

トレーニングを始めるのに「早い方が有利」ということはなく、子どもでも大人でも伸ばすことができるといいますが、一方で池谷先生は、「小さい子の場合は脳に柔軟性があるので、生活の中で意識することで伸びる部分は大きい」と見ています。

では、具体的にはどんな遊びが子どものメンタルローテーション・トレーニングに向いているのでしょうか?

レゴやジャングルジム、スマホまで!身近なモノが大活躍

池谷先生が教えてくださったトレーニングのアイデアは3つ。どれも遊びの中で、空間を頭の中にイメージする能力を伸ばすことができます。

1.「スマホの自撮り機能」で“鏡合わせの視点”に親しむ!

「だいたい0歳後半から1歳くらいで、鏡合わせで左右ひっくり返るイメージを理解できるようになります」と池谷先生。

ごく初期のメンタルローテーション能力を伸ばすには、左右反転する鏡を使った遊びが有効。鏡を前に、ママと赤ちゃんが並んで座り、「真似っこしてみよう」と声掛けをして楽しむだけでも子どもの脳を大いに刺激します。

意外なところでは、タブレットやスマートフォンの“自撮り写真モード”。

右手・左手がわかる幼児期では、まず普通のモードでママが右手を挙げた写真を子どもに撮ってもらい、そのあとで自撮りモードに切り替え、「ママと同じポーズの写真を撮ってみよう」とチャレンジしてもらうと…? 大人でも混乱しそうな知育遊びに早変わり!(※スマホやタブレットの画面を長い間凝視しないよう注意しましょう!)

2.「ジャングルジム」で空間把握能力を身につける!

公園の遊具にも、メンタルローテーションを鍛えるヒントが!

「ブランコは2Dだけど、ジャングルジムは3Dなんですよ」と池谷先生。前後方向の動きを楽しみ体幹を鍛えるブランコに対し、ジャングルジムは前後・左右・上下と自由度の高い動きができ、メンタルローテーションを鍛えるのに最適なのだそう。

たとえば今いる地点から対角線上の反対側へ移動する、という行動にもこの能力が欠かせません。

「いったん地面に降りて外側から向こうへ回る子もいるかもしれないし、登るのが上手な子はそのまま一番上まで登ってから端まで移動したり、解決法はいっぱいあるわけです。

その中から、自分の能力に応じてストラテジーを組み立てる。これにはメンタルローテーション能力が大きくかかわってきます」(池谷先生)。身体を動かすのが好きな子にはうってつけの方法です。