昆虫飼育が子育てに活きること

――子育ての上で、虫を育てる経験が役に立ったなと思うことは?

「子育てにどれだけ活きたかはわからないけど、生き物が死んでしまうということに関しての、命の尊さについては覚えたんじゃないのかな。

カブトムシだけでなく、金魚でもメダカでもヤゴでも飼育すると、いつかは必ず死んでしまう。虫は昨日まで元気だったのに、突然、次の日に死んじゃう時がある。

それは気温や気圧の関係もあって、必ずしも、飼育だけの問題じゃないんだけど、でも、死んでしまうと、絶対に悔やむんだよね。自分の飼育のどこがわるかったんだろうって。

マットに水分が足りていなかったのかなとか、いろいろ考えて、工夫する。

そういう虫への態度は最終的には人へと繋がっていくんだよね。それはすごくいい学習だと思うし、そういう経験があるかないかで全然違ってくるとおもうよ」

カブトムシを飼育する上で大切な基本のキ

――具体的にカブトムシを飼育する上で、大切なことをスターターに教えてもらえますか?

「まずはカブトムシのマットの状態をよく観察すること。

マットとなる腐葉土を買ってきて、袋を開けると、湿り気があって、土はふかふかで黒々としている。これが乾燥するとだんだん白くなってくる。俺は三分の一ほど、マットが白くなると必ず水分を補充します。うっかり者の子どももいるかもしれないけど、二分の一ほどはまあ、許そう。

でも、それ以上、土が乾いてしまったら生きていけない。冬場は部屋が乾燥するから濡れた新聞紙をマットの上に掛けるだけで違ってくる。

あと、幼虫が生まれると、子どもは嬉しいから、ついつい触ってしまう。虫を触るという経験はすごくいいことなんですよ。

どういう力加減で触らないとダメなのかは体験しないとわからないから。でも、人間の36,5度の人肌はカブトムシの幼虫にとっては熱すぎて、やけどみたいになる。

渓流の魚と一緒です。だから、触りたいときは水で手を冷やすとか、冷たい腐葉土で手をまぶしてみよう。

本当は腐葉土越しにすくって、直接触らないことが肝心なんだけど、でも、どうしても触りたいときは、肌の温度に気を付けて、そして幼虫の赤い点々(気門)は絶対、触らない。そういうことを工夫したらいいと思います」

虫を長生きさせるには?

――やっぱり、虫を扱うには繊細な対応が必要なんですね。

「本当に長生きさせたかったら、幼虫は一匹ごとにケースに分けして飼育するのが一番いい。

大勢でケースにいれていると、必ず餌を巡って縄張り争いしますから。森で樹液を観察していたら、一本の木にカブトムシが大勢でとまっているってまずない。

ただ、一匹捕ると、また、次が来る。それが面白いんだよね。そういう餌争いをする、縄張り争いをするということも、子どもにとっては学びになる。

だから、そこはケースバイケースで対応すればいいと思うね」

――子どもは好奇心が強いので虫を好きになるきっかけにあふれていると思うのですが、親の方が、虫が苦手で、飼育に一歩踏み出せないというケースもあるようです。

「うちのおふくろも虫は苦手だったよ。僕はカブトムシやクワガタだけじゃなく、トンボのヤゴや鳥、トカゲ、蛇も家に持ち帰る子どもだったけど、でも、おふくろは自分の部屋でやることならと、そこに関しては一切、放置状態だった。

苦手な親御さんは変に口出しせず、思い切ってお子さんに任せるというのも一つの虫との付き合い方です。

あと、虫が苦手という人は、よくよく聞くと、虫の予期せぬ動きが怖いという人もいる。

確かにゴキブリみたいに素早く動き回るのはいるけど、カブトムシは一定の方向にしか歩かないから、そんなに怖くないと思うね」

今年の「大昆虫展」の見どころ

――今年の「大昆虫展」の見どころを教えていただけるでしょうか?

「今年は虫のパワーを体感する装置や、虫の木にぶら下がる力を体感するぶら下がり機など、体験型の装置が増えていて、そこが面白いと思います。

毎年恒例の『ふれあいの森』ではカブトムシやクワガタを直接触れるんだけど、今年は、ヘラクレスオオカブトに触れるっていうのがでかいかな。

ヘラクレスオオカブトを展示するイベントは多いんだけど、触らせてもらえるのはなかなかないよ」

――最後に虫に興味をもった子どもたちにメッセージをお願いします。

「人間の飼育には必ず限界があって、自然と全く同じ環境にするのは難しい。でも、こまめに掃除するとか、水分を補充するとか、工夫することができる。

工夫したら自然の中で生きるよりも、長く生き、大きく育つことができます。

それともう一つ大切なことは、幼虫の時に栄養を与えないと大きく成長できなくて、成虫になってからはどんなにエサを与えても大きくならない。

それは人間の子どもと一緒。そういうことも、観察すると楽しいから、是非、チャレンジしてみてください!」

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)、『アジア映画の森 新世紀の映画地図』(作品社)などにも寄稿。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』(共にキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。