慶應義塾大学医学部小児科教授の高橋孝雄先生が、小児科医として36年間、病気の子どもとその保護者によりそった経験の集大成を書いた初の著書『小児科のぼくが伝えたい 最高の子育て』が好評、話題を呼んでいます。
本のなかの「子どもを信じて待てば、いつか必ず持って生まれた才能は花開く」というメッセージは、正解を求めて右往左往しがちな現代のママたちにも確実に届いているようです。
とかくないものねだりをしがちな私たちですが、「トンビがタカを産むことはない」と高橋先生。それはあきらめではなく、最初からそこにある可能性を見つけ直す作業とも言えるかもしれません。
ですが、子育てINGのママたちには不安がいっぱい。事前に現役の子育てママたちからリアルな悩みを集めて、高橋先生にうかがってきました。インタビュー形式でお楽しみください。
“子どもの病気を治したければ、おかあさんを治しなさい“
――ご著書を読ませていただきました。私自身も子育て中なのですが、「子育てに手遅れはない」、「子どもが好きなのは、いまのおかあさん」など、励まされるような言葉があふれていて、最初の子が生まれた時にこんなお医者さんが身近にいたらよかったのにと思いました。
高橋孝雄先生(以下高橋)「いなかったですか? そこら中にいますよ(笑)」
――本当ですか?(笑) 病院っていうところは子どもを持つ親にとっては、緊張する場所なのですよね。なにか怒られるんじゃないかって身構えてしまいます。
高橋「そうですね、自分が病気の時は患者さんだけど、子どもが病気になって連れて行く時は、保護監督の義務のある保護者ですから、なにやってたんだって言われる、あるいは、なんでこのくらいで連れて来るんだって言われる、と思うのかもしれないですね」
――そうなんです。わかっていただけてうれしいです。先生のご著書の前書きに書かれていた、“子どもの病気を治したければ、おかあさんを治しなさい“という言葉が印象に残っています。
高橋「あれはぼくの言葉ではなく、ぼくが最初に教わったことなんです。もう100年の歴史がある言葉で、どんな小児科医も最後には悟るわけです。子どもを治すのはもちろんだけど、おかあさんを治さなくてはいけないのだなって。ぼくもようやく気づいたんですよ」
――そうなんですね。それを実践されているのは素晴らしいと思います。
現代ママたちは正しい情報にふりまわされてしまっている!?
――実際に、外来に来られるママたちと接していて、なにか感じられることはありますか。
高橋「私のところは小児神経の外来なので、発達が遅れているとかてんかん発作があるとか自閉症やADHDではないか、ということで来られる方が多くいらっしゃいます。
ですから、通常の病院とは若干事情が異なることもありますが、私が感じていることは、世の中に正しい情報が多すぎるということですね」
――正しい情報ですか?
高橋「はい、よく“世の中には間違った情報があふれている”といいますが、ひとつひとつ見てみると、そうでもないんですよね。むしろ正しい情報がネットや本の中にあふれていることがおかあさんのプレッシャーになっているんですね」
――なるほど~。
高橋「間違った情報であれば、修正すればいいのですが、正しい情報だとそうはいかないですよね。
それに、正しい情報があなたにとって役立つ情報とは限らないんです。また、正しいからといって、子どもにやらせていいとは限らない。
そこが、現代の子育てのつらいところなのではないかと思いますね。多くのおかあさんたちは、正論をかざされたら、それをやっていない自分は間違っていると指摘されたと感じてしまうのでしょう」
――正しい情報に振り回されてしまうのですね。