ストーリーは怒涛の展開に…。思わず客席から「なんだこれ…。」

ストーリーは後半、大きな転機を迎えます。3人の息子たちとの旅行先で、母ミチコが転倒、そのまま帰らぬ人になるのです。さぁ、いろいろな意味で家を動かしていた巨大な存在が消えた時、家族はどのように動くのか…。

撮影 永峰拓也

ここで大きく動いたのは、若き夫の太一でした。ミチコが憑依したような言動で、咲良との結婚を勧めるのです。ミチコの狂信者である3人の息子たちはそれに翻弄されますが、咲良は一人、太一と向き合い、全てが太一の狂言であることを自白させます。

そこで、太一が咲良に近づき、全てを告白します。ミチコを結婚相手に選び、咲良を次の結婚相手にしたいのは、5年前に亡くした母親の面影を求めていたから…と。このくだり、インタビューで聞いていたのに完全に忘れていました(笑)。こんな重要なポイントだったとは!

撮影 永峰拓也

ここで場面は一転、逃げる咲良と追う太一、そしてそれを阻止する家族たちのシーンに移り変わるのですが、なぜか唐突に始まる殺陣!忍者女子高生として隠し通路を駆使する咲良!タイトル通りだ!

チャンチャンバラバラの剣劇の合間に、これまで劇中に登場した小道具が使用されるのは、まるで伏線が回収されるようで爆笑必至。最後には、3人のヨメがミチコの愚痴を言いながら作った無数のキャンドルで、家が燃え上がる!

終盤はとんでもない疾走感で駆け抜けていきます。あまりにも急激な展開に、こちらも思わず開いた口がふさがりません。このあたりで、近くのお客さんが思わず声を漏らしていました。「なんだこれ…。」

撮影 永峰拓也

この声を聞いて、自分は納得がいきました。そう、これがきっと、根本さんの言っていた「AKBの舞台裏のような」次に行くのがどこだかわからない混乱の感情なのでしょう。見事、観客を大混乱の渦に突き落としてくれました!

最後の最後、三男の妻が赤ちゃんを出産。「男の子でした!」という一言で舞台は幕を下ろします。さてこの家族はこれからどうなるか…さらなる混乱を予感させたところで、忍者女子高生の咲良がニヤリと顔を出し、幕が下ります。

親子関係を揺らし、女性性と男性性を揺らす『忍者、女子高生(仮)』

根本さんは事前インタビューで男性と母親を描きたい、とおっしゃっていましたが、同時に描かれていたのは母と娘の関係でした。ラスト近くで掲げられる母の遺影は、根本さん(=咲良)がミチコの衣装を着たもの。

ショッキングでもあり、当たり前のようでもあり…。どんなに逃げても血のつながりからは逃げられない、という現実を突きつけるようなこのシーンは、最も母と近かったのが、一番忌避していた娘だった、という意味にも取れます。母と息子の関係が特別なら、母と娘の関係も特別なのでしょう。

劇中の咲良自身、「AKB48に入りたい!」と言ってみたり、太一にパンツを見せて「おばさんのパンツよりも女子高生のパンツがいいんじゃないの?」と言ってみたり、「若い女性」であるというアイデンティティーを最も強く持っている、というところも面白かったです。

咲良がミチコを否定し、否定し、否定しつくしても、やっぱりどこか、女性性を最大限に利用しまくるミチコと似ているんですよね。親子、という不思議な関係性は、温かくも残酷。非常に考えさせられました。

そして、母親を3人の男性が入れ代わり立ち代わり演じるというアイディアも最高でした。もちろん3人の俳優さんの演技力もあるんでしょうが、脚本・演出も手掛ける根本さんの、男性の中に備わっている女性性を引き出す力に感服します。

全ての人間の中に、男性性と女性性が混在しているけれど、社会的立場の中に隠している。でも、『忍者、女子高生(仮)』は、そこをゆさゆさとゆさぶりかける、そんな感覚です。

家族、母と子、性役割という繊細で今日的なテーマを、ちりばめられた笑いで包んで問いかけた今作、非常に面白かったです!

次回作も大・大注目!根本宗子から目が離せない

ラディカルかつ笑えて、そして考えさせられる作品となった『忍者、女子高生(仮)』ですが、根本さんはまだまだ止まらないようです。

次回本公演となる9月~10月の月刊「根本宗子」第13号タイトルは『夢と希望の先』。会場はあの本多劇場!舞台初出演となる橋本愛さんや、元BiSリーダーのプールイさんが出演という注目のキャスティングです。

さらに6月の別冊公演『バー公演じゃないです。』には、ウレぴあ総研でもおなじみ、劇団ハーベストのリーダー青山美郷さんが出演します。バッチバチの化学反応が期待できそう!

そして新企画となる『根本宗子の面談室 VOL.1』には、アイドルシーンを席巻する「生ハムと焼うどん」の二人が登場。ひそかに『忍者、女子高生(仮)』での根本さんのツインテール姿、生うどんの東さんに似てる!と思っていたりしました。個人的にも注目のイベントです。

ともかく勢いを増す根本宗子さん、これからも注目したいと思います!今回のレポートは以上です。

根本宗子公演・イベント情報

別冊「根本宗子」 第5号『バー公演じゃないです。』

作・構成・演出 根本宗子

日程 2016年6月14日(火)~6月19日(日)
会場 中野・劇場HOPE

出演 青山美郷 長井短 石澤希代子 根本宗子

月刊「根本宗子」 第13号『夢と希望の先』

脚本・演出 根本宗子

日程 2016年9月28日(水)~10月2日(日)
会場 下北沢・本多劇場

出演 橋本愛 玉置玲央 プールイ 鬼頭真也
小野川晶 大竹沙絵子 長井短 墨井鯨子 鈴木智久 尾崎桃子 根本宗子

根本宗子 月イチ企画 『根本宗子の面談室 VOL.1』

ゲスト 生ハムと焼うどん

日時 2016年5月27日(金) 18:30OPEN/19:30START
会場 新宿ロフトプラスワン

詳細は公式サイトにて