今年の5月11日に、厚生労働省研究班がうつ病などで治療や精神面のケアが必要な妊産婦が年間4万人もいるとの推計を発表しました。
さらに、2005年からの10年間で、うつ病などが原因で自殺した妊産婦は63人にも上るという順天堂大と東京都の調査データもあります。
出産した女性が心身共に健康であることは、健全な子育てのための必須条件。最近になってやっと、さかんに産後ケアの必要性が叫ばれるようになってきましたが、現場ではまだまだ支援が足りていないというのが実状のようです。
そんな中、近年「産後ドゥーラ」というものが日本でも誕生し、話題となっています。
産後ドゥーラとは、産後の大変な時期の女性に寄り添い、子育てが軌道に乗るまで、家事や育児だけでなく、精神面でも全面にサポートする新しい職業。
今回、産後ケアの現状と必要性について、一般社団法人ドゥーラ協会の代表理事であり、現役の開業助産師である宗祥子さんにお話をうかがってきました。
“うつ”だけでは片付けられない、産後に自殺する母親が多い理由
――さっそくですが、今、産後うつになる人が非常に増えているといいます。最悪の場合、赤ちゃんがいるのに産後うつの果てに自殺してしまう人がいるというのは、にわかには信じがたいのですが…
宗祥子さん(以下、宗):「赤ちゃんがいるのに」ではなく、「赤ちゃんがいるから」なんです。
――そうですね…! 出産がゴールになってしまっているからでしょうか。
宗:それが最近では、「妊娠がゴール」の人もいるんですね。不妊治療などしている方だと特に。
――うーん、たしかに出産や妊娠は華やかなイメージがありますが、その後に続く子育ては生活そのものですから、想像がしにくいのかもしれませんね…。
産後の大変な時期を、若かったり、体力があったり、または気合いで乗り切ってしまう人の中には、子どもが歩きだす時期を過ぎてから、心身共に疲れが出てしまう人もいるのではないでしょうか。
宗:そうならないためにも、産後にしっかり休むことは必要なのだと感じています。
産後はいろんな痛みが身体に残っているということがあまり知られていないんです。会陰切開や帝王切開の傷は癒えるのに時間がかかりますし、授乳し始めは乳首が切れたりして相当痛いです。
また、無痛分娩は楽かといったら、そんなことはなくて、麻酔が切れた後、腰がすごく痛いんですよ。
会陰切開も会陰の伸びが十分ではないために、通常の分娩より深く切開する場合が多いようです。麻酔の副作用で頭痛がある場合もありますし。
自分の身体の回復がままならないまま、赤ちゃんに気を向けることは難しいですよね。
――たしかに、どんなに安産でも出血はしますし、ふつうに考えたら、大けがですよね。
宗:そうです。開いた骨盤が戻るのにも時間がかかります。
日本人の生活は欧米化しましたが、身体はまだまだアジア人なのです。