古都鎌倉には甘味処がよく似合う。ランチにはフレンチやイタリアンを選んだとしても、名所旧跡めぐりの途中のお茶には、緑茶やほうじ茶をいただきながら、お汁粉やくず餅などを賞味し、一息つくほうが鎌倉の旅には相応しい気がする。

和菓子が似合う鎌倉で、この秋、ぜひ入ってみたい店を2軒紹介する。

お店で炊いた豆が絶品の「豆かん」

まずは、江ノ電和田塚駅の線路脇にある甘味処「無心庵」へお連れしよう。

無人改札口を降りて、徒歩1分。線路際に建つ潜り門を抜ける。真っ赤な野点傘を横目に見ながら、飛び石を数歩歩けば、そこが無心庵だ。

「この店は母が、平成2年に始めたんです。母は、私たちにいつも手作りのお菓子を食べさせくれていました。お菓子作りの趣味が高じて、甘味処をやりたいと思い、この店を開業することにしたんです。ところが、ご覧のとおりここにはクルマが通る道路もありません。誰にも知られずひっそりと営業できればと考え、暖簾を掲げることにしました」

と語るのは、母から店を受け継いだ佐藤徳子さんだ。

創業者で、母の関口幸子さんは、「人においしいと喜んでもらえることが儲けだ」というのが口癖だったという。

この店でいちばん人気の「豆かん」(600円)を注文した。

寒天の上に、2色の求肥と、色艶が美しい、ふっくらと炊けたおいしそうな豆がのっている。

これにお好みで黒蜜をかけて食べる。

寒天、求肥、黒蜜は既成品を使っているが、今でも豆は台所で炊いているのだそうだ。

北海道産の赤えんどう豆を一晩か、二晩じっくりと水にさらす。水を含んだ赤えんどう豆をコトコトと時間をかけて煮る。

炊いているところを見せて欲しいと佐藤さんに頼んだ。ところが、「途中で鍋のフタを開けると、色艶が悪くなるので」と言われ、断念した。

その代わりに、水にさらす前の赤えんどう豆を見せてもらった。

廊下に置かれた茶箱に赤えんどう豆を保存していた。