のどを涼しげに潤す「冷やし汁粉」
もう一品、「冷やし田舎汁粉(つぶあん)」(800円)を頼んだ。
食感も甘さもちょうどよい。残暑というよりも酷暑だったこの日は、ひんやりとした田舎汁粉が、すうっと身体に入ってきた。
豆かん同様、台所で炊いた小豆で作った粒餡を食べさせくれる。
冬は温かい田舎汁粉が登場する。
玄関の壁に筆で書かれた額が飾ってあった。達筆すぎて読めないでいると佐藤さんが教えてくれた。「むしん」と書かれているのだそうだ。
「『あなたにぴったりだから』と思った父が、母に贈った書です。店を始めるにあたり、母はこの書から無心庵と命名しました」
玄関先を走る江ノ電の音だけが聞こえてくる落ち着いた店内で、おいしい和菓子を賞味させてくれる。
神奈川県鎌倉市由比ガ浜3-2-13
0467-23-0850
10時~17時
木曜休
“湘南きな粉”とともに味わう「わらび餅」
鎌倉駅前にある小町通りに、先月、甘味処「こまち茶屋」がオープンした。
小町通りは、飲食店や土産物店など、いろいろな店が軒を連ねる、鎌倉屈指の目抜き通りだ。
他店と差別化するため、こまち茶屋では独自のメニューを開発した。そのひとつが、「本わらび餅」(1200円)である。
「わらび餅など、どこででも食べられる。いまさら何を」と思うなかれ。
一般的にわらび餅は、きな粉をまぶしたものが出てくる。ところが、この店では、ちょっと変わった食べ方でわらび餅を提供している。弁当箱のような容器で供しているのだ。
フタを開けると、きな粉とわらび餅が目に飛び込んでくる。
わらび餅は南九州産のわらび粉を使用。注文後、ひとつひとつ手作りしているのでまだ温かい。これを氷水に入れて提供する。冬は温かい状態で出す予定。
「まずはわらび餅だけで食べてみてください」とマネージャーの齋藤一貴さんに言われた。
素のわらび餅を食べる機会はほとんどない。わらび餅の香りと食感を味わいながら賞味したら、きな粉をつけて食べる。
そもそもきな粉は、大豆で作られていることを知らない人が多いかもしれない。
こまち茶屋では、神奈川県相模原市の津久井で、ほそぼそと栽培されてきた大豆を加工したきな粉を使っている。
「津久井産の大豆は、地元農家の間だけで消費されていた、幻の大豆と言われています。他所にはほとんど流通してこなかった貴重な大豆です。その大豆で作ったきな粉を、『湘南きな粉』の名前で使わせていただくことにしました」
拙宅ではきな粉に三温糖を混ぜることが多いが、こまち茶屋では徳島特産の和三盆を選んだ。
徳島や香川で生産されている砂糖の一種が和三盆だ。地元で竹糖(ちくとう、たけとう)と呼ばれるサトウキビで作った和三盆は、粒子が細かく、優しい甘みがあるのが特徴。
三温糖を混ぜたきな粉は、ザラつき感が舌に残りやすい。ところが、サラサラした風合いの和三盆をまぶすことで、きな粉のほのかな甘さと香りを感じることができる。
甘党としては国産の黒蜜をたっぷりとかけたいところだが、黒蜜はできる限りひかえたい。かけすぎると、きな粉の甘みと、奥深い香りがかき消されてしまうからだ。