イラスト:上田 耀子

男女としての会話もなく、お互いに無関心で暮らす仮面夫婦。それでもいいと思っていたけれど、息の詰まる生活に耐えられなくなったとき、選ぶのは「離婚」か「ふたたび新しい関係を築く」かですよね。

もう一度やり直そう、と心に決めた妻は、仮面夫婦から脱却するためにどんなことを心がけていたのでしょうか。

そのきっかけは何だったのか、ご紹介します。

愛情を取り戻すのは笑顔と言葉

1.セックスレスから仮面夫婦になったけれど

39歳のある女性は、夫と息子の三人で暮らしています。

結婚した当初は夫との仲も良く、いい関係であると自覚していました。

それが変わったのは、妊娠の前後から。

「昔は週に何度も抱き合っていたのですが、だんだん回数が減ってきて、私が誘っても断わられるようになったんですね。

でも、私は子どもがほしかったので何とか夫をその気にして行為に集中してもらい、無事に妊娠できました。

でも、それから夫は私にいっさい触れることがなくなり、妊娠中はもちろん出産後もスキンシップを取らなくなって。

家事も育児もやってはくれるけど、私の存在は同居人という感じで、愛情のある言葉のやり取りもなくなりました。

セックスレスも寂しかったけれど、それ以上に夫の無関心がつらく、子どもに笑顔を向けるのに私には朝の挨拶もしない姿を見ると、どんどん愛情を感じられなくなりましたね」

“これが仮面夫婦なんだろうな”、と彼女はインターネットの記事を読んで自分たちがどんな状態なのかを知ったそう。

離婚は考えなかったのか尋ねると、

「私の収入でも子どもと二人で暮らしていくことはできます。

でも、子どもがパパっ子で夫にすごくなついているのを見ると、離婚して離れ離れにする勇気がなくて。

夫は親権を争うだろうし、そういうストレスを想像すると“このままでいいや”って諦めるほうが楽でした」

と、彼女は答えました。

そんな状態が数年続きますが、状況が変わったのは引っ越しの話が出たときでした。

2.引っ越しを機に会話が増える

彼女たちご夫婦は、以前から子どもが小学校にあがるタイミングで引っ越しを考えていました。

今の家は校区の端っこにあって小学校までが遠く、その後の進学まで考えると近くに住むのが得策だというのが、夫婦で一致していた意見。

「そろそろ新しい家を探さない?」

と彼女が話しかけると、夫は

「そうだな。引っ越しの準備をはじめようか」

と素直にうなずいてくれたそうです。

「それすら、私は“話しかけても無視されたらどうしよう”って心臓が痛かったんだけど、意外とまともに答えてくれたからほっとした」

というのが、そのときの彼女の感想でした。

それからは、インターネットで案件を見たり不動産の雑誌を買ってきたり、ふたりの会話が増えたといいます。

子ども部屋の配置やキッチンの動線など、真剣に家族が住む家について考える夫の姿は、

「正直に言うと、引っ越しを持ちかければ離婚を切り出されるかも、という不安がありました。

そのときはもう正面から向き合うしかないなと覚悟していましたが、夫が今の生活を続けようとしているのは驚きでしたね」

と、彼女にとっては新鮮に映ります。

引っ越しは、住む家を決めるだけでなく、今後どう暮らしていくか将来についての話を避けられません。

彼女の夫は、

「俺もお前も年を取っていくんだから、洗濯物は一階に干すのがいいだろう」

「この子が大きくなったら、自転車やスクーターを置くスペースも必要かもしれない」

など、この先もずっと一緒に生活していくことを前提に話していたそうです。

その姿が、彼女に勇気を与えました。

「もう一度、昔のような仲のいいふたりに戻りたい」

それを願う自分を実感したとき、彼女は今から変わることを決めたそうです。