3.話しかけ、笑顔を向けられる自分を取り戻す

「引っ越しや新しい家の話題なら、夫はちゃんと私の話に耳を傾けます。

なので、夕飯の準備をしながら新しい家でどう過ごしたいか質問してみたり、休日は物件を見に行くついでに家具屋さんに行きたいと言ったり、私のほうから積極的に話しかけました。

最初はぎこちなかったのですが、会話が続くと夫が笑う瞬間もあって、それを見て息子がうれしそうに走り寄ってくるときもありました。

私たちが笑っていると、息子も安心するんだなと改めて思いましたね」

それまでは、夫と子ども、彼女と子どもと別々の時間を過ごすことが多かったのですが、三人でテーブルを囲む時間が増えて話題が多くなっていくのがうれしかったと彼女はいいます。

また、彼女はこのときに夫に笑顔を向ける自分を思い出しました。

「最後に笑いかけたのがいつだったか、目も合わさず話すことばかりだったので、夫に笑顔を向けられる自分に気がついて驚きました。

たぶん、夫もそうだったかもしれません」

昔は、お互い見つめ合って笑うことが当たり前だった。そんな幸せな瞬間から遠ざかり、笑いかけることすらなくなったここ数年、彼女は「家で笑顔になるのは息子に対してだけだった」そう。

夫も同じ状態なのはわかっていて、それがまた目を見て会話できるようになり、笑顔を作るふたりになりつつある。

彼女を勇気づけたのは、そんな自分に冷たい態度を取るでもなくリラックスして座っている夫の様子で、落ち着いた時間が流れているときは自分から積極的に話題を作って話しかけるのを続けたそうです。

4.「これから」を諦めない勇気

彼女たちご一家は、まだ引っ越し先は決まっていませんが、以前より三人でのお出かけが増え、子ども以外の話題も夫婦の間で交わす機会が増えました。

夫から久しぶりに「おはよう」と言われるようになり、彼女も笑顔でそれに応えて朝ごはんの用意をする。

その流れは、「まだちょっとぎこちなさは残るけれど」明らかに穏やかな空気を運んでくれて、「ホットケーキが食べたい」と元気に要求してくる子どもにも、彼女は気持ちよくうなずいているそうです。

夫婦が変わるきっかけは何だったのか、筆者は彼女のなかには「諦めたくない」気持ちがあったのでは、と思います。

セックスレスから仮面夫婦になったけれど、本当に夫への愛情を失ってしまったのなら、引っ越しのタイミングで離婚を切り出していたのは彼女のほうでしょう。

仮面夫婦であれ、窮屈な関係を続けることはエネルギーを使います。それに嫌気がさしていたのが本音であり、離婚ではなく「ふたたび新しい関係を」と望んだのは、「ラブラブな夫婦でいたい」というポジティブな自分を取り戻したかったのではないでしょうか。

セックスレスの問題は解決できていませんが、心の距離が近くなればスキンシップも自然になります。まずは“触れられる自分たち”を取り戻すのが先であり、そのためには笑顔と言葉が愛情を育む源です。

コミュニケーションを諦めないこと。「これから」まだ変わっていけると信じること。

その勇気が、仮面夫婦からの脱却では何より必要だと実感します。

仮面夫婦は、その味気ないつながりに本当にふたりが満足しているという例は少なく、それは「以前は普通に愛し合っていた」事実があるからです。

そのときの喜びや幸せを取り戻したい、また夫婦としてやり直していきたい。そんな本音は、普段は見えないけれど何かのきっかけで心を動かします。

コミュニケーションを諦めない勇気は、ふたりの絆をつなぐ大きな力になるのだと、改めて思いました。

 

プロフィール:37歳で出産、1児の母。 これまで多くの女性の悩みを聞いてきた実績を活かし、 復縁や不倫など、恋愛系コラムライターとして活躍中。「幸せは自分で決める」がモットーです。ブログ:Parallel Line