現代の育児は人類の本能に反していた!?
「母親であることに自信が持てない」、「子どもをかわいいと思えない」、「夫へのイライラが止まらない」などママたちの悲痛な気持ちを受け止めた番組スタッフは、科学者や専門家への取材を始めます。
すべての母親は出産したその日から、初めて尽くしの子育てに悪戦苦闘し、赤ちゃんのあらゆる行動に悩み、突然の不安や孤独感に襲われます。
もし、そのマイナスな感情にはすべて科学で証明される理由があるとしたら…?
それを知ることで、気持ちが少し楽になるような情報を盛り込んだ番組が制作されました。
例えば、産後うつの原因ともなる「子育て中に孤独を感じる」という深刻な問題について。実はそれにも科学的な理由がありました。
妊娠中に母体の卵巣でたくさん分泌された女性ホルモンが産後に激減することで、母親の脳内に強い不安や孤独を生むことが分かったのです。
約700年前、チンパンジーから枝分かれして誕生した人類が、外敵に狙われる環境の中でたくさんの子どもを生み育てるために、仲間の子は皆で育てていこうという「共同養育」という仕組みが作られました。人類本来の子育ては、不安や孤独を感じることで他者にも頼りゆだねていくというというのが、自然の形なのだそう。
チンパンジーの育児と人間の育児を比較研究する松沢哲郎さん(京都大学霊長類研究所教授)は、「人間は、みんなで助け合って子どもを育てるという道を選んだからこそ繁栄できた生物。私たちの体内には共同養育の本能が流れているんだから。現代の母たちが『育児がツラい』と思うのは、人間として当たり前のこと」と語っています。誰の助けもなく子育てを続けていくのは、科学的にも不可能だというのです。
核家族が8割で、唯一の子育て仲間である夫の育児参加は1日約1時間と、欧米とは比べものにならないほど少ない現代の日本。人類が進化の過程で得た「共同養育」の本能を無視した社会構造がママたちを苦しめているということが分かりました。
お腹にいるときの記憶が夜泣きをさせる
他にも「夜泣き」は、赤ちゃんが胎内にいるときの名残りからくる行動だということも紹介されています。
胎児は活動をする際に、母の体内の酸素を消費して生きています。お母さんが寝ている間、つまり夜中の方が母体の酸素消費量が減るため胎児は夜に活動するのです。生まれてからもこの睡眠サイクルが残っているということで、このことはお母さんの体に負担をかけないためという、赤ちゃんの優しさのようにも感じられます。
睡眠について研究する佐治量哉さん(玉川大学脳科学研究所准教授)は、「乳児は眠っているのに動いたり、声を出したり、目を開けることもしばしばあるんですよ。なのですぐには抱き上げず、10秒間、様子を見守ってみる。そうすれば、赤ちゃんが本当に目を覚ましたのかどうかがわかるはずです」と教えてくれています。
この世に生を受けたばかりで発達途中の赤ちゃんが、私たちと暮らすために生活リズムを整えている真っ最中と考えることで、ママの気持ちがフッと楽になるかもしれないですね。
書籍『ママたちが非常事態!? 最新科学で読み解くニッポンの子育て』の帯には「大丈夫。ママのせいではないのです。」と書かれています。その一言だけでも救われる気がしますが、中身は悩み多きママたちにとって処方せんのような本です。
本書には放送第2弾「NHKスペシャル ママたちが非常事態!? 2 ~母と“イクメン”の最新科学~」(2016年3月27日放送)の内容も収録されています。放送を見逃してしまった人はもちろん、番組を見て共感した人もママ友などへのプレゼントにおススメです!