我が子には良い大学に進学し、良い就職先を見つけてほしい……そう願う親は多いですよね。そのために子供が産まれてすぐに学資保険に加入して教育資金を積み立てている人もいると思います。

ですが、この大学進学→就職という従来の安定コースが、幻想になる時代が来るというのです。

安易な大学進学に警鐘を鳴らすのは、『親なら知っておきたい 学歴の経済学』の著者であり、上越教育大学教職大学院教授の西川純先生。

今回は、大学進学=安心・ゴールではない、現代における賢い進路選択をするコツを伺いました。

進学時やりたいことが定まっていないのはリスキーな時代

――本書を書こうと思った一番のきっかけを教えてください。

西川純さん(以下、西川)「2020年に入試改革があります。その背景を調べているうちに、そんな入試改革どころではない現実を知ることになりました。それがきっかけです。」

――大学教授というお立場で、大学教育が、または大学の学生が、どんなふうに変わってきていると感じていますか?

西川「30年以上、大学教師をしていますが、大学教育や大学の学生はほとんど変わっていないと感じます。

ところが社会は大きく変わっています。その事を気づかせようと文部科学省は様々な手立てを講じていますが、大学は変わりません。その結果、予算で絞るというレッドカードを出しはじめました。

東京大学を筆頭とする一部の大学はそのままですが、それ以外の大学は専門職業大学・専門職大学院というジョブ型に脱皮することが求められるでしょう。そして、残念ながら一定の大学は潰れることになると思います。」

――変わっていく学校教育と進路選びに際して、親は子どもがいくつぐらいのときから子どもとともに考えていく必要があるでしょうか。

西川「子どもが生まれる前から心構える必要があると思います。ただし、自分自身が心構えるだけでは不十分です。子どもも、自分自身も周りに大きく影響されます。だから、周りの人達に現状の変化を理解してもらうことが大事です。

例えば、私自身は現状を理解していますが、高校生の我が子にそれを充分に説得できません。何故なら、我が子は同級生の価値観の中にどっぷりとつかっているからです。」

――同級生の価値観の中につかっている子どもに、現状を気づかせ、誘導するのにいい方法はありますか?

西川「『学歴の経済学』を一読してください。そして、それが本当かどうか調べてください。

そこまでやる方は少ないでしょう。でも、少ないですが、います。その方が周りに広げることのメリットを理解すればいいのです。自分だけ、自分の子どもだけ分からせることは出来ないのです。」

――子どもの学力に不安があり、やりたいことも定まっていない場合はどういう選択をするのが最良なのでしょうか。

西川「やりたいことも定まっていないという状態はリスキーです。急いでやるべきものを見いだすべきです。

例えば、『アクティブ・ラーニングによるキャリア教育入門』(東洋館)をご覧下さい。他の人がうらやむ職業に就くことをやめて、自分なりの幸せを見いだすことが大事です。案外近くにあるものです。」

――いろいろな変化があり、これからの高校、大学進学は今までと同じような考えでいてはいけないんだなと身を引き締めるような気持ちになったのですが、終身雇用も保障されず、つぶしの効く(職業に直結しない)学部はハイリスクとされる現代の進路選び、厳しいことばかりのように思えるんですが、逆にメリットはどんなところにあるでしょうか。

西川「従来の価値観に縛られている限りは厳しい未来しかありません。しかし、従来の価値観から脱すれば明るい未来があります。

例えば、我々は東京大学の医学部・法学部を頂点とするリーグ戦に小学校から組み込まれていました。そして、ごく一部以外は負け組としてリーグ戦に脱落します。その馬鹿馬鹿しさに気づけば苦しみから解放されます。」