そして第三作が、このたび刊行された『神様のカルテ3』だ。本作の中心人物となるのは、一止が大狸先生と呼んで敬服する内科部長・板垣の元の教え子である。前作で欠員が出た本庄医院の内科に、腕利きとの評判のある小幡奈美が着任するのだ。歯に衣着せぬ物言いの奈美は、一見独善的ともとれる患者の接し方をして人間関係に波風を立ててしまう。しかしそれは、確固とした信念があってのことだったのだ。見かねて奈美に対話を求めた一止は、彼女の指摘によって自らに足らないものを思い知らされてしまう。
第一作ではあえて採り上げられずに措かれていた問題が、本書では改めて浮上してくる。他人の命を預かる職業の人間にとって最も大事なものは何であるか。それは一止がこの後医師を続ける上でもっとも重要な問いである。これまではただひたすら「人間らしくある」ことを優先し続けてきた一止が、初めてそれ以外の、さらに言えばもっと難度の高い問題にぶつかることになる。その問いに、彼はどう答えるのか。文字通り手に汗を握りながら、最終話を読んだ。
つい最近、海堂尊の医療ミステリー『ケルベロスの肖像』をこの欄で採り上げたばかりだが、医療小説はその存在意義が大きくなる一方のジャンルである。第三作で一応の区切りがついた形の『神様のカルテ』だが、これで完結させるのではなく、ぜひその先、そしてもっと深いその奥を書き続けていってもらいたいと思う。医療の現状を描いて、医師という人間の類型を美しく描くという境地に達したシリーズである。栗原一止という人物は、まだまだ見守るに値する主人公なのだ。
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