「隠された」人々

著者がディズニー・アニメーションにおける女性の歴史に興味を持ったきっかけとして語られるのが、映画のクレジットに並ぶ名前が男性ばかりということでした。

女性というだけで賃金や待遇が下げられ、名を残すことすら許されない、まさに「隠された」存在だったかが、彼女たちの人生と共に描かれます。

シンデレラやティンカー・ベルを描き、ナイン・オールド・メンの一員として知られるマーク・デイヴィスですら、書類で女性と誤解されたために一時は不採用となったという事実からは、女性の待遇の低さが決して女性が能力が低かったという理由ではないことがわかります。

タイトルは「女性」を扱った作品ですが、「多様性」は女性だけに限りません。

本書では、黒人やアジア人、真珠湾攻撃後の日系人というマイノリティにも焦点を当てます。

女性よりも登用が遅かった黒人アーティストの歴史、そして『南部の唄』がいかにして作られ、黒人蔑視の作品になってしまったのかもしっかりと示されています。

メアリー・ブレアの優しいデザインの影にある人生

様々な女性の物語が語られる中で、最も有名な女性は、メアリー・ブレアでしょう。

本書でも、様々な女性の中で最もウォルトに気に入られたと言える才能の持ち主として多くのページを割かれています。

メアリー・ブレアは、『シンデレラ』や『ふしぎの国のアリス』のコンセプトアーティストとして知られ、パークでは「イッツ・ア・スモールワールド」のデザインを担当した女性。

日本では「メアリー・ブレア展」が開催されるなど、特に彼女の人気は高く知られています。

本書では、そんな彼女の功績だけでなく人生にもスポットを当てています。

ディズニーに入った経緯、作品に大きな影響を残すアートが生まれる過程、パークのデザインを手がけた晩年、そして彼女の優しいデザインの影にある壮絶な人生も明かされます。

そして、男性優位のディズニー・アニメーションの歴史を明らかにするだけでなく、そこに参加しながらも行動しなかった彼女たちの姿勢すら浮かび上がらせます。

ディズニー史に必須の視点をもたらす良書

『白雪姫』から、『眠れる森の美女』まで、ウォルト時代の長編アニメーションを1作品ずつ詳細に製作過程が明かされていきます。

これまで、ウォルトの視点から語られることが多かった初期ディズニー・アニメーション史を、女性アーティストという視点から見つめることで、また新たな歴史の姿が浮かび上がってきます。

ウォルトの死後は重要作品だけの紹介に留まりますが、『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』、『ムーラン』、さらにピクサーとの関わりも見ながら、『アナと雪の女王』まで巡ります。

女性アーティストという視点を通して、ディズニー・アニメーションの歴史を俯瞰する、これまでにないディズニー・アニメーション歴史書としての価値もあります。

これはディズニー・アニメーションの歴史に女性やマイノリティの存在が不可欠であり、これまでの女性アーティストの存在に欠けた歴史は不完全だったことを示しています。

多様性を追求するこれからのディズニーの姿を追う上で知っておきたいディズニーの歴史が詰まった、必読の一冊です。

アニメーションの女王たち
ディズニーの世界を変えた女性たちの知られざる物語
ナサリア・ホルト=著|石原薫=訳
発売日:2021年02月26日
456頁
定価:2,600円+税

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