東京・神奈川・千葉を拠点にした書店、株式会社有隣堂と、横浜市内を中心にカット野菜や業務野菜などを販売する株式会社つま正がコラボレートした『有隣堂本店マルシェ』が、3月5日(土)に有隣堂伊勢佐木町本店で開催されます。

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  • 以前行われたつま正のマルシェの様子
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書店×八百屋という異業種によるイベントということでかなり興味深いが、一体2社はどんなきっかけでタッグを組むことになったのか?また、その気になる内容とは?

野菜ソムリエでもあるつま正の小山正和社長と、有隣堂の事業開発部の鈴木由美子氏に話を聞きました。

マルシェでは一歩先を行って、変わった野菜を提案したい

写真左から有隣堂の事業開発部の鈴木由美子氏、つま正の小山正和社長

――まずは、有隣堂さんとつま正さんがコラボレートするに至ったきっかけから聞かせてください。

鈴木 以前から弊社の社長が、書店の店頭で野菜を売りたいと言っていたのですが、業界が違うので、どこにアタックすればいいんだろうと思っていたら、ぴあさんが、つま正の社長様を紹介してくれました。

それで、うちの飲食部門の担当者と共に、つま正の社長のお考えや業務内容などを伺って、ぜひご一緒させていただきたいということになりました。

――小山社長は、有隣堂さんからお声がかかった時、どう思われたのでしょうか?

小山 まず、書店で野菜を売りたいというオファーをいただいた時点で驚きました。

でも、今や時代は変わって、これまでのやり方に固執すべきではないので、こういったトライアルは弊社としても必要ではないかと思いました。

僕たちの会社は、外食産業さんとの取引が多いのですが、コロナ禍でそこが厳しくなり、ちょうど過渡期に来ていたところだったので。

これまでつま正では、プロの料理人の方々に、ホテルクオリティーの野菜を情報と共に供給してきましたが、B to Bの環境をB to Cに持っていくことで新しい展開ができるし、今後を見据えた時、新しいマーケットの開拓と共に、生産者の方から買い取る際の単価の構築もしていくことで、生産性を上げ、利益効率も良くなっていけばいいかなと思いました。

――そこはやはり、量販店での販売とは差別化されていますか?

小山 量販店では、いわゆる薄利多売での誘客をしていると思いますが、弊社ではしっかり野菜のブランディングをしていきたくて。

なぜなら野菜にはその先にある生産者の強いこだわりや努力があることを知っているので、そこは他社とは違う提案ができるのかなとも思いました。

量販店だと、野菜単品の価格で選ぶのが当たり前ですが、マルシェでは一歩先を行って、単価が上がったとしても変わった野菜を提案したいです。

それがどんな料理になるのかにワクワクするし、新たなチャレンジができるかなと。また、昨今のフードロスなどのSDGsの面からも、いろんなご提案ができるかなと思い、今回賛同させていただきました。

書店が担ってきた情報発信のやり方を、もう一度見直したい

――コロナ禍において、ビジネスの変化はありましたか?

鈴木 もともと近年、書店数が減っていて、本が売れなくなっているなかで、コロナ禍となりましたが、全国規模で言えば、実は本の売り上げが上がった店舗もあります。

皆さんの在宅時間が長くなり、遠出もできないし、旅行もできないから、家で本を読もうということで、地方の書店さんは、売り上げを伸ばしたお店もあると聞いております。

弊社も本店など通常時以上にお客様にお越しいただいていた店舗がございました。

小山 コロナ禍における弊社の取り組みで言うと、初動としては一昨年の5月からドライブスルーでの野菜販売を始めたことが大きかったです。

その時にアンケートリサーチをかけたら、18種類の野菜のなかに入れてあった変わった野菜が面白いという意見をいただきました。

――SNSによって、ユーザーから生の意見をダイレクトに聞けるようになり、購買スタイルも変化してきましたね。

鈴木 弊社の社長がよく言うのですが、書店って本来は本を買う場所というよりは情報を仕入れたり、店主と話したりして人とつながる場所だったけど、スマホの普及によって、その役割をSNSに持っていかれたんじゃないかと。

だから今、うちの会社では、書店というものを再定義し直そうとしています。書店が担ってきた地域のコミュニケーションや、情報発信のやり方をもう一度見直したいということですね。

野菜を絶対に無駄にしちゃいけない

つま正の公式サイトでは、プチヴェールのミモザサラダなど、レシピを紹介しています。

――つま正さんは、SNSで珍しい野菜の食べ方やレシピなども紹介されていますね。

小山 うちは、旬なものを主力にして仕入れているので、お客様にどんな食べ方をすればいいのかをアウトプットしてきました。

ただ、販売の仕方はリアルだけじゃなく、今の時代だとオンラインで売ることも視野に入れなければいけない。

だから今回のマルシェにおいては、オンラインとオフラインの接合部分ということで、八百屋としての原点回帰じゃないけど、リアルな店舗に行かないとわからない情報も付与することで、新しい価値を見いだせたらいいなと思っています。

――今回、書店でマルシェを開催するにあたり、どんな課題が上がりましたか?

鈴木 本はそもそも腐らないというか、中身は古くなりますが、置いていても腐らないですよね。

でも、野菜はやはり鮮度が大事で、管理する必要があるので、果たして書店で取り扱えるだろうか?という不安はありましたね。

でも、小山社長から「フードロスも心配だと思いますから、まずはポップアップという形で、僕たちが店頭で説明もして、残ったものは持って帰ります」と言っていただいたんです。

それで、今回はトライアルという形でプロの方に来ていただいて、一緒に管理するところから始めることになりました。

――それはかなり心強いですね。

鈴木 お取引のなかで、小山社長が、誰を見てらっしゃるのかなと考えた時に、自分たちの利益ではなく、やはり消費者の方や、野菜を作った生産者さんのことを考えていらっしゃることに感銘を受けました。

野菜を絶対に無駄にしちゃいけないということはもちろん、小山社長自ら生産者の方のところに足を運んでらっしゃることや、土からこだわっている生産者のお話なども伺って、私ももっと勉強させていただきたいなと思った次第です。

小山 それは僕がもともと市場に勤めていたことが大きいかなと。産地側と直にセッションして、ほかの市場よりもより良い物を自分の下に仕入れたいと思ったし、生産地で直接生産者の想いやこだわりを聞いたり、物自体のクオリティを確かめてきました。

そういうことが根幹にあるから、今回のマルシェでは量販店とはちょっと違ったご案内ができるんじゃないかなと思っています。