ソウルでは寒さが本格化する11月の初めくらいまで、店の外で飲み食いする人の姿を見かける。
冬の寒さが厳しいので、外気の気持ちよさをギリギリまで感じていたいのだ。
暑くも寒くもない10月半ばは外飲みに最適で、いつもは酒2本で終わるところが3本、4本と進んでしまう。
人気俳優ユ・アインが不良高校生を演じた映画『ワンドゥギ』(2011年)で、主人公の担任教師(キム・ユンソク)と近所の小説家(パク・ヒョジュ)が駄菓子屋のような店の外で酒を飲むシーンはそんな空気をよく伝えていた。
今回も前回に続き、外飲みのメッカである乙支路3街(ウルチロサムガ)駅前の生ビール天国を歩いてみよう。
ここはノガリ(姫鱈=スケソウダラの幼魚)の干物を炙ったものをつまみにビールを飲ませる店が集まっていて、ノガリ・コルモク(横丁)と呼ばれている。
最古参のビアホール「OBベオ」が消滅
2022年の春、ノガリ横丁の最古参で、たった4坪の小さなビアホール「OBベオ」の店舗が撤去された。マスコットキャラクターだった熊のイラストが描かれた看板も消えた。
本物の積年を感じさせる木のカウンターは、我が国でようやく定着し始めた一人飲みをするのに最適な場所だった。私がこの店を初めて日本人向けの媒体で取り上げたのは2010年だったと思う。
以来、韓国人よりはるかに一人飲み上手な日本人旅行者のファンも増えた。
1980年の開業当初は、生ビール(500cc)が380ウォン、つまみのノガリが100ウォンだった。当時は生ビールと謳いながら、品質管理のよくないものも少なくなかったが、この店のビールは信頼できたという。
42年間、同じ場所で生き続け、ソウル市から「未来遺産」の称号を送られた「OBベオ」が建物の大家と揉め始めたのは2018年だ。
その後、「OBベオ」が消えるという噂が何度か流れたが、そのたびに常連客と市民団体による反対運動が起き、延命してきた。
しかし、2022年1月、ノガリ横丁に複数の「満船HOF」を開業した社長が、「OBベオ」が入っている雑居ビルの権利の62%を買って大家になると、関係者の反対運動もむなしく、4月21日に強制退去させられてしまった。
今、「OBベオ」のあった場所には、「ヒップチロ・ホフ広場(ヒッピーな乙支路、ビアホール広場)」の看板が掲げられ、ノガリ横丁を制圧した「満船HOF」の厨房として使われている。
商売敵の「OBベオ」を攻め落としたとでも言いたげな店構えは、まったくもっておとなげがない。
資本主義の世の中だから、経営者が変わるのはしかたがない。しかし、この横丁の生き証人であり、本物の積年の魅力で集客力もある「OBベオ」の店舗をそのまま生かさなかったことは、無粋としか言いようがない。
「満船HOF」の斜め向かいにあるビアホール「ミュンヘン」は、ブロックごと再開発されることが決まっている。
「ミュンヘン」が姿を消せば、ノガリ横丁総満船HOF化は事実上、達成されることになる。