300円でうまいカレーライスを食べさせてくれる店がある。学食でも社員食堂でもない。というか、いまどき立ち食いそば屋でも300円でカレーライスを出している店はないだろう。
ミニカレーなら300円で食べられるかもしれないが、この店のカレーライスは大盛りでも400円。
玉ねぎやジャガイモやニンジンや肉が入った具沢山のカレーライスに、福神漬けも付いている。しかもちょっとピリ辛。
ややピリ辛でうまいカレーがまさかの300円!!
カレー通や本格的なカレー好きは、「物足りない」とこぼすかもしれない。けれど、家庭料理の延長線にあるこの店のカレーライスなら大半の人がうまいと思うはずだ。
「300円でこの味なら納得」という意味ではない。かなり満足できるカレーだと断言できる。
この店『菊屋』のご主人、竹之内雅巳さんは今年(2023年)1月で82歳。高校を卒業した18歳(1959年)から菊屋で働きはじめ、28年前からひとりで営業を続けてきたそうだ。
カレーをなぜ300円で提供するのかを竹之内さんに説明してもらう前に、菊屋の歴史をふりかえりたい。
菊屋があるのは墨田区向島。東京スカイツリーのお膝元だ。と書くと竹之内さんに失礼かもしれない。
なにしろ東京スカイツリーが影も形もない、60年以上前からこの地で営業を続けてきたのだ。
「小学1年生のとき(1948年)、疎開先から帰ってきたときには、親父はこの店をやっていたんだ。それ以前は違う場所にあったので、いつから営業しているのかわからないんだよ」
つまり店舗は築64年以上。ちなみに、東京スカイツリーは築11年(2012年2月竣工)。