『るろうに剣心』作者が描くゴシックホラー

明治初期を舞台に“人斬り抜刀斎”と呼ばれた剣客の活躍を描いた『るろうに剣心』。少年ジャンプでの連載はずいぶん前に終わっているが、いまだにOVAやゲーム、映画が制作されている息の長いコンテンツだ。2014年には劇場映画の第2作と第3作が公開予定だという。

その作者・和月伸宏(わつきのぶひろ)氏は現在、活躍の場をやや対象年齢高めなジャンプスクエアに移し、『エンバーミング』でゴシックホラー・アクションとも言える分野に挑戦している。

中心となるモチーフは死体をつなぎ合わせた“人造人間=フランケンシュタイン”。19世紀ヨーロッパを舞台に、家族や幼なじみを人造人間に惨殺された主人公・ヒューリーがみずからも「人造人間を狩る人造人間」となり、復讐の旅を続けるというストーリー。
 

超人たちが繰り広げるド派手なバトルは過去の『るろうに剣心』『武装錬金』と変わらないが、全体的にダークな作風。描写面にしても、少年誌という足かせが外れたことで、今まで守りきっていた一線(女性の下着姿、幼い子供の惨殺死体など)を遠慮なく踏み越えている。

物語の構成もより複雑に進化した。あくまでメインはヒューリーの復讐譚だが、「人造人間になってしまった恋人を元に戻そうと旅する技術者」「悲しい過去と出生の秘密をもつが、その記憶を失ってしまった最強の人造人間」など、普通の作品ならソロで主人公になれるようなサブキャラも豊富に登場。

ほぼ一貫して主人公視点で描かれた『るろうに剣心』などとは違い、さまざまな立場のキャラクター視点から語られる“群像劇”の印象が強くなった。

まだまだ物語の着地点は見えてこないが、4作目の連載にして和月作品の集大成になりそうな予感がある。デビュー作の『るろうに』から知っている人は、この『エンバーミング』もきっと楽しめるはずだ。

 

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。