返す言葉の「正確さ」にこだわらない

相手が本当に言いたいことや気持ちを想像すると、それに正確に応える言葉を返すことが自分の役割だと思う人がいますが、そもそも自分とは違う人間のことを「正確に」把握するのは不可能です。

会話で気まずい思いをするパターンに、「発した言葉が相手の気持ちを損ねて雰囲気が悪くなった」というものがありますが、発する側の原因には「こうだと思ったことが相手の本音と違っていた」「これが正解だと思ったけれど相手には違っていた」など、考え過ぎが見えるときがあります。

「相手にとって正しい言葉を返さなくては」という意識は、相手の気持ちを尊重するからこそ生まれるものです。

その姿勢は正解だとしても、何が「正確か」を完全に掴むのは難しいものです。それは自分の気持ちが相手にまっすぐ伝わらない場面を経験するとわかります。

誰だってこちらの気持ちに寄り添ってくれる言葉はうれしいけれど、それを返すことにこだわり過ぎると、自分の本心や本当に言いたいことを口にできなくなり、窮屈な思いをします。

会話は相手の正解を叶えるのが目的ではなく、違っていたとしても自分の気持ちを素直に伝えること、知ってもらうことで、お互いの理解を深めていく機会です。

相手の気持ちの正確さにこだわらず、自分のなかに生まれる気持ちや言葉を大切にする意識が、ストレスを減らす距離感となって会話を助けてくれるのです。

相手の気持ちを決めつけない

たとえば片思いの人に告白して振られた話を相手がすれば、「悲しいに違いない」「きっとつらいだろう」と自分の価値観で気持ちを判断してしまい、「落ち込まないで」「次はいい人に出会えるよ」など先回りした返事をして「落ち込んでないよ」と気まずい空気で返される。

「振られたけれどすっきりした」「伝えられたことに満足している」など、相手は前向きな気持ちを持って話しているのに、それを「落ち込まないで」など勝手に決めつけられたら、あまりいい気分はしませんよね。

寄り添ったつもりでも反発する言葉が返ってくれば、お互いに「わかってもらえない」のようなネガティブな感情が生まれ、後味の悪い会話で終わります。

きちんと相手の言葉を聞けば、「次はもっと幸せな恋愛ができるね」など、相手と同じように前向きな言葉が出たかもしれません。

自分はそう思っても相手も同じとは限らず、こんなすれ違いを避けるには「最後まで話を聞く」姿勢が必須です。

どんな内容であれ結論は人それぞれで、「失恋=つらいもの」と思わない人も当然にいます。

相手の気持ちを「こうだろう」と推測するのは大切ですが、それが本当かどうか、話を聞きながら判断する冷静さもつまずかない会話では重要といえます。

自分と等しく相手にもその人の価値観や考え方があることを、忘れてはいけません。

「相づちを打つ」のは立派なスキル

よく「うまい返答ができずに相づちを打ってばかりになる」「相手に話してもらう一方でこちらは無言になってしまう」と悩む人がいますが、「相づちを打つ」のは「話を聞いている姿」であり、それを伝えられるのは立派なスキルだと筆者は考えます。

話している最中に「それは」と自分の意見を挟んできたり、最後まで言ってないのに「こういうこと?」と結論を決めつけたりする人との会話は、楽しいでしょうか。

「うん」「そうなんだね」とうなずく言葉は、相手にとって「話してもいいのだ」という大きな安心です。

余計なことを言われないから屈折を覚えず自分の気持ちを素直に言葉にできる、これが相づちを打たれている側の状態で、「遮られない」のはありがたいですよね。

話す側の気持ちになると、「相手が『うん』しか返してこない」と不安を感じる人もいますが、こちらの話に関心を持たず適当に聞き流しているか、先を促すつもりで力強くうなずいてくれているかは、声のトーンやタイミングでわかるものです。

話を聞いていれば自分にも言いたいことが生まれますが、それを堪えて「相づちを打てる」のは相手の話したい気持ちを尊重する姿勢であって、誰もができることではありません。

うんしか言えない自分の印象が不安になるときは、「ちゃんと聞いているからね」と一言添えるのも、お互いにリラックスして話すのを助けてくれます。