ホットケーキの提供をはじめた理由とは?
鈴木さんは24歳のとき(1976年)、万惣に入社。
30歳で退社するまで6年間ホットケーキを焼き続けた。
「加茂さんにホットケーキの焼き方を教えてもらいました」
加茂さんというのは、池波が『むかしの味』につづっている加茂老人のことだ。
「万惣で五十近くもホットケーキを焼きつづけてきた」のが加茂老人、その人。
「自分で、うまく焼けたと思うのは、一日にいくらもありません」
という加茂老人の言葉を池波は同書で紹介している。
鈴木さんはホットケーキのレジェンドだった加茂さんに、ホットケーキの焼き方を伝授された。
そして1996年 11月、43歳で独立。千葉に『我家我屋本店』をオープン。
創業当初、ホットケーキを封印していた。
世話になった万惣のホットケーキを出すわけにはいかないと思っていたからだ。
ところが、万惣が2012年に閉店。
「修業時代毎日ホットケーキを仕込み、焼いていました。自分で焼いたホットケーキにバターをはさみ、昼飯がわりに食べたあの味が忘れられません。自分がやらないと万惣のホットケーキが消えてしまいます」
という思いがつのり、万惣閉店後しばらくしてからホットケーキをはじめることにした。
万惣のホットケーキ再現のために研究を重ねた
「加茂さんに教えてもらったレシピを忠実に守っています」
けれど、小麦粉、卵、砂糖、ベーキングパウダーなどの材料が、万惣とは異なる。
「限りなく万惣と同じホットケーキを焼けるように研究しました」
小麦粉、卵などで作った生地をひと晩寝かせる。
熟成させることで生地が落ち着くのだそうだ。
焼き立てのホットケーキによつ葉バターをのせ、自家製の黒蜜をかける。
この黒蜜も、万惣仕込み。
焼き立てのホットケーキ(748円/すべて税込)をいただいた。
ホットケーキを切った瞬間、甘い香りが立ち上った。
これほどふくよかで、芳烈な香りのホットケーキを食べるのははじめて。
「バニラエッセンスではなく、バニラオイルを使っています」
耐熱性があり、持久性も高いことからバニラオイルを選んだ。
甘い香りに加え、フワフワすぎず、硬すぎないところもよかった。
そしてもうひとつ。
ホットケーキの表面のザラザラ感が印象的だった。
このザラザラがどこに由来するのかわからない。
けれど、これまで出会ったことがない食感が心地よかった。