薬丸岳の同名小説を『ヘヴンズ ストーリー』(10)、『64-ロクヨン-』(16)などの瀬々敬久監督が映画化した『友罪』(5月25日公開)は、隣りで静かに微笑む友がかつて日本中を震撼させたあの事件の“少年A”だったら? という衝撃の問いを観る者に投げかけてくる慟哭の社会派サスペンス。
映画は、ジャーナリストの夢に破れて寮のある町工場で働き始めた益田が、同じ時期に入社した鈴木との友情を育むうちに、彼が17年前の連続児童殺傷事件の犯人なのではないか? という疑いを持つことから急変する壮絶なドラマを映し出していきます。
そんな本作で生田斗真の演じた益田が出会う、あの“少年A”かもしれない鈴木を体現したのは若手の演技派として常に注目を集めてきた瑛太。
硬軟幅広い役柄を演じてきた彼が、そのキャリアの中でも最も異色な鈴木役に『64-ロクヨン-』に続く瀬々敬久監督の現場でどう挑んだのか?
そんな役へのアプローチから本作のテーマに対する自身の考え、俳優としての現在のスタンスまで余すことなく語ってくれました。
“少年A”を演じる覚悟とは?
――『友罪』の鈴木を演じるのにはそれなりの覚悟がいったと思うのですが、オファーがあったときはまずどう思われましたか?
「最初はやっぱり、神戸の連続児童殺傷事件の犯人がモチーフになっている鈴木を、父親でもある自分が演じるというところがなかなか結びつかなかったですね。
それに映画で“少年A”を描いて、見てくださる方にどんなメッセージを伝えたいのか、プロデューサー陣と瀬々敬久監督といろいろな話をしたときに『実際の少年Aが書いた手記を読んでみると、何か感じることがあるよ』という言葉をいただいて。
読んでみたら、彼自身が脚色した部分もあるかもしれないけれど、言葉を読み進めていくうちに、彼に対する興味と、そこには当時中学生だった男の子の心理状態や家庭環境、そこから生まれる殺害に至る衝動の流れが書いてあって、その行為を全否定できないという考えが自分の中に芽生えたんです。
人間なら誰しも、自分の想像を超える衝動のようなものが生まれてしまう可能性があるんじゃないか? そんな気がしてきたので、そこをまず基盤にして役を作っていったという感じです」
――こういった役を演じることに対する怖さや、役者がこういう役を演じる意味みたいなことは考えなかったんですか?
「この作品はあくまでもフィクションなので、演じる際には鈴木という役を愛して、真正面からちゃんと向き合わなきゃいけないなということだけを考えていました。
演者としてはやっぱり楽しまないといけないし、鈴木を演じた僕を見て何を感じるのか? は見ていただく方に委ねているので、この役をやったらどうなるんだろう? といったことはあまり考えなかったですね」
――普段の役とお芝居のアプローチで何か違うところはありましたか?
「あまり変わらないですね。台本を読んで最初に感じたこと…その第一印象を大事にすることだったり、読み込むうちに生まれるアイデアを現場で如何に自由に取り入れることができるのか? というプロセスはほかの役のときと基本的には同じで。
本番ができるだけ予定調和にならないよう、そのときに感じたことが出てくればいいなというスタンスで現場に向かうのもいつもと一緒だったような気がします」
――いま言われた台本を読み込むうちに生まれたアイデアにはどんなものがあったんでしょう?
「鈴木が映画の冒頭で初めて登場するときに、どんな立ち方をしているのか? 身体のどこに意識が行っているのか? どんな呼吸の仕方をしていて、目線はどこを向いているのか? そういった細かいところを自分なりに考えて現場に持っていきました。
そこに『見え隠れする狂気をもっと色濃く出していってもいいんじゃないか』という監督の演出が加わったり、殺人を犯してから何年も経っている設定ではあるけれど、人間としてどこか破綻していたり、感情が複雑に歪んでいたりすると思うので、そこを監督とディスカッションしながら普通の人間ではない鈴木を作っていったという感じです」