食事は「礼」の基本!
「礼は飲食に始まる。飲食における作法の心得が、生活全般の礼法の基本となる」
「食事における礼節や作法は、守るべき日本の文化なのだ」
…と子どもにトクトクと説明したところで、きっと十中八九“キョトン顔”です。
「ダメなものはダメ」などとぶっきらぼうに言ってはいけません。ましてや「やめなさいって言ってるでしょ!」などと怒り出してはいけません。
それからよく、「お店の人に怒られるからやめなさい」と言うのを耳にするのですが、これは理由としてヘンです。お店の中で大声で叱りたくない、という気持ちもわかりますが、親としての立ち位置が子どもに伝わらないからです。他人に怒られるからではなく、「親自身がいけないことだと思う」と伝えるべきだと思います。
「周りに迷惑がかかるからやめなさい」。「みっともないからやめなさい」。
子どもが小さければ小さいほど、その意味は理解できないと思いますが、大事なのは、親としての気持ちを言葉で伝え、一貫した態度をとり続けることなのではないでしょうか。
「礼なければ、飲食をほしいままにして見苦しく、禽獣の行いに近し。」(貝原益軒『五常訓』)
「禽獣はくらい、人間は食べる。」(ブリア・サヴァラン『美味礼賛』)
子どもを「禽獣(きんじゅう=鳥・けだもの)」扱いしたくはないですが(笑)、放置しておくと本当に禽獣同様になる恐れがあります。周りの人と気持ちよく食事をするための配慮ができるのは、たしかに人間だけです。
京都の老舗料亭・菊乃井の村田吉弘さんは著書の中で次のように語っています。
「いちばん大事なもんは何やていうことは、きちんと親が教えるべきことでしょう。それを誰からも教えてもらわへんまま大人になっていくことがどんだけかわいそうか」。
残念な大人にさせないためにも、時に「お尻を叩いてでもやめさせるべきことはある」。子どもは親の背中を見て育つとよく言われます。諦めず繰り返し伝えることで、人間らしい「礼」をわきまえた人間に育てたいものです。
伝統的作法から学ぶ、「正しい食べ方」5
さて、ここからは少しグレードアップ。室町時代より伝わる「小笠原流礼法」に基づいた正しい食べ方をお伝えします。
●お箸は右で持つと便利
和食の場合、基本的に右手に持った箸で食べやすいように配膳されています。ナイフは右、フォークは左で持つのと同じような感覚で、左利きでも右手で箸を持てるようにしておくと、のちのち役に立つ場面があると思います。
参考記事:不快度90%以上! やってはいけない「箸」のタブー&正しい使い方(ウレぴあ総研)
●器は手に持つ
特に刺身の受け皿や酢の物など、汁ものや汁の入った器は手に持たないとこぼれます。手を受け皿にするのはNGです。
●食べ方
ごはんだけを続けて食べたり、ひとつのおかずだけを先に片付けてしまうことは避け、ごはん→汁→ごはん→おかず…と、ごはんを中心に順番にいただきます。
●箸先はできる限り汚さない
箸先で汚していいのは「箸先五分(約1.5cm)」または「箸先一寸(約3cm)」。器の方へ口を近づけるのではなく、「器を口に近づけて」食べます。
●器の扱い方
右にあるものは右手で、左にあるものは左手で扱います。例えば右手で左側にあるものを取って袖を汚したり、他の器に触れてこぼしたりなどの「粗相」を避けるためです。
作法についてはとてもここでは書き切れませんが、一見面倒そうな決まりごとも「粗相をして見苦しくないよう」「周りが心地悪さを感じないよう」「美しく見えるよう」考え抜かれ、受け継がれてきたもの。すべて理由があります。日本の文化ともいえる作法、ぜひたくさん知っておきたいですね。
最後に、料理屋さんでの最低限のマナーの一部をご紹介します。お店の人への気遣いも忘れずに。
●敷居や畳のへりは踏まずに「またぐ」。
●座布団を踏んで歩かない。
●壁や柱にもたれない。
●食べ終わった後は、最初の状態に戻す(蓋がついていたものは蓋をする。器は重ねない)。
●強い香水はつけない。
【出典】
・食事に関する習慣と規範意識に関する調査報告書
・『小笠原流和食の作法』小笠原清忠・小笠原純子/一般社団法人 礼法弓術馬術小笠原流
・『ホントは知らない日本料理の常識・非常識』菊乃井 村田吉弘/柴田書店