「自分がされて嫌なことはお友達にしないで」「相手の気持ちをよく考えて」と叱ることってありませんか。
でも、人の発達の中でこれが通じない年齢があります。もしかして、「僕は相手ではないから、友達の気持ちはわからない」と心の中で叫んでいるかもしれません。
『立石流 子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方』の著者の立石美津子がお話しします。
“相手の立場に立って考える”これを心理学の専門用語で“心の理論”と言います。
これが育つ時期は4歳以降と言われています。0歳から保育園に入れた子の方が、3歳から幼稚園に入れた子どもよりも社会性が早く育つわけではなさそうです。
サリーとアンのテスト
突然ですが、発達障害の代表である自閉症スペクトラム症であるかどうかを診断する心理検査に“サリーとアンのテスト”があります。
さあ、答えを出してみましょう。
- サリーはカゴを持っています。アンは箱を持っています。
- サリーは持っていたボールをカゴの中に入れて、部屋を出ました。
- アンはそのボールをカゴから出し、自分の箱に入れました。
- そこへ、サリーが帰って来ました。ボールで遊びたいと思いました。
さて、サリーはカゴと箱のどちらを探すでしょうか?答えは?
「カゴ」
正解です。
何故その答えを出したのですか?
「サリーはアンがボールを箱に入れ替えた事実を知らないのだから、当然、自分が入れたカゴを探す」
誰の気持ちになって(=立場になって)正解を導き出しだのですか?
「サリーの立場に立って考えてみた」
正解できたのは “心の理論”が育っているから。だから違う人の立場に立てたのです。
でも、相手の立場に立てない子は「箱」と答えてしまいます。
マーブルチョコのテスト(スマーティ課題)
- この筒の中に何が入っていますか?(筒にはマーブルチョコの絵が載っている)
- 「マーブルチョコ」と答える子
- 「違います。ここには鉛筆が入っています」
と鉛筆を出して見せる。 - 「ところで、お友達が来たら、何が入っていると答えると思いますか」
「鉛筆」
これも“心の理論”育っていない間違った回答です。友達の立場に立ってみたら、そこに鉛筆が入っている事実を知らないのですから「マーブルチョコ」と答える筈ですよね。
心の理論
これらのテストは“自らの視点ではなく、相手の立場に立って物事を判断することが出来るか”を調べるものです。
発達障害に代表される自閉症の子は“社会性・コミュニケーション・想像力”の発達の遅れがあるため“心の理論”の獲得が遅く、これが小学生になっても正解が出来ないことがあります。
18歳でも不正解
筆者の息子は知的障害を伴う自閉症です。
東大病院での検査がこれです。一見、〇が多いように見えますが、主治医に聞いたところ18歳でこの正答率はかなり低いとのことです。
下段の所見には次のように書かれていました。
「後半はストーリーが複雑であるため、ストーリー理解に困難さがありました。○○君(息子の名前)は目に見えた事実そのものは理解できますが、他者がどう思っているかということなど他者視点を理解することが難しい様子でした。
また、話の文脈から状況理解をすることも難しく、相手が話している内容をそのまま受け取ってしまう傾向も見られました。
○○君は状況を察することが難しいので、一つ一つ説明をすることが必要だと思われます。また、他者視点の弱さもあるため、周りがどう思っているかなど説明が必要となります」
ところが、このテストは4歳未満の定型発達児に試しても同じ結果が出ることが多くあります。
まだ自分中心に生きている幼い子は自閉症児でなくても、「ボールは箱の中にある」「鉛筆が入っている」と自分が見た事実をそのまま答えてしまうのです。