実食して驚き、そして製法を聞く
さて、いよいよ試食の時間である。
和牛コンビーフのほかに、これも人気というポークジャーキーもいただく。
それにしてもコンビーフを間近で見てみると、普通のコンビーフとはかなり異なることがわかる。
どうだろう、このきめの細かさは。
そしてどうだろう、このすっきりとした切断面は。
口のなかに運ぶと、噛むよりも早くほろりと溶けるように、なめらかにほぐれていく。このコンビーフに歯の出番はほとんどないと言っていいだろう。
1人で出かけた取材のため味わう記者の顔を撮影する別カメラがなかったが、頬が落ちそうなほど緩みきった恍惚(こうこつ)の人間の顔を想像したらそれがそのままこのときの顔である。
口どけに驚き、それと同時に口のなかに広がる上品で奥深い和牛の味にうっとりとした顔を記録されずに済んだのは、それはそれでよかったが、まさにパンフレットの「お口に入れるとお肉の幸せ味が広がり、コンビーフのイメージが変わりますよ!」という言葉どおりの味だった。
この「和牛コンビーフ」に使用されている「極上和牛」とはA5ランクの宮崎牛である。精肉としてその日売れ残ったものや、精肉に加工する過程で出る端材を有効活用するためにコンビーフをつくり始めたという。
しかし、その完成までに4日を要する製造工程を詳しく聞いてみると、単純な有効活用とはひと味もふた味も違う、まさに「手間と時間を惜しまない手造り」であることが分かる。
まず、塩と香辛料に一晩漬け込み、それから半日以上煮込んだあとで一度冷やす。冷やすと表面に脂が浮いてくるのでそれを取り除き、さらに手作業で肉の筋も取り除く。その後ふたたび加熱し、型に入れてもう一度冷やし、完成である。
この丁寧な作業が、白い脂や筋がほとんど見えない美しい仕上がりを生むのだ。
一般的なコンビーフも脂身や筋膜、筋を取り除くが、「こだわり家」では、煮込んで冷やした あとに浮かんでくる脂も取り除くので、白い部分が非常に少ない仕上がりになる。また、牛肉の繊維質を生かすコンビーフもあるが、「こだわり家」では繊維質 も丁寧に取り除かれるので、切るとすっきりとした切断面になるのである。
一緒に試食させていただいたポークジャーキーは、パンフレットに「ソフトに仕上げてありますのでお子様でも召し上がれます」とあるとおり、繊維にそってさらっとちぎれる。
ただし、ただ柔らかいだけではなく、ジャーキーらしい適度な歯ごたえももちろんあり、柔らかさと固さの絶妙なバランスが美味な逸品であり、うっかり全部平らげてしまった。
さて、コンビーフであるが、100グラム600円という価格を高いと感じる人もいるかもしれない。しかし、A5ランクの宮崎牛を「こだわり家」の肉材から仕入れ「こだわり家」で加工している、完全自家製だからこその価格とのこと。
もともとが有効活用なので価格設定はぎりぎりのため、もし流通業者などが間に入ると価格はもっと上がってしまうそうだ。「和牛コンビーフを売りたい」という業者がよく訪ねてくるそうだが、これ以上安く卸すことはできないと説明すると、どの業者も諦めて帰っていくという。