“人生最高レベルの大変さ“に、「うそでしょ?」
―妊娠中はつわりもなく、出産も楽勝だったとエッセイのなかで書かれていますよね。
明「1人目はほんとに楽でした…出産までは(笑)」
――妊娠中に、産後の生活について想像されたりしていたのでしょうか。
明「幸せな妄想しかしていませんでしたね。かわいいベビー服を買って、こんなの着せるんだ、かわいい~とか、かわいい赤ちゃんと愛する夫と天気のいい日にお散歩する、とか。
本当に楽しい想像しかしていなかったので、もうまさかこんな…かわいいベビー服も初めて着せた時に、うんちをもらされてまっ黄色になっちゃって下着に降格(笑)。こんなにすぐダメになるんだったら、高い服買わなければよかった、とか」
――一気に現実ですね(笑)。
明「前髪ははげるし、おっぱいは痛いし、子どもはかわいくないし、うそでしょって感じでした。
妊娠中の体のことや生活のことに関しては、パパママ教室などで教えてくれますが、産後にこんな大変なことが待ち構えているなんてことは、想像もしていなかったので、なんで誰も教えてくれなかったのって思いました。
ただ、当時の私に誰か教えてくれても、幸せの妄想中で耳に入らなかったかもしれませんが(笑)」
――人生の中で起きた予期せぬ出来事の中でランキングをつけるとしたら、産後の大変さっていうのはどのくらいのレベルのものでしたか?
明「人生最高レベルの大変さでしたね。いまだにそれは更新されていません!」
――第1子で苦労される方は多いと聞きます。いきなり赤ちゃんとふたりきりになる生活というのは、それまでに経験したことのない種類の孤独を感じる時期でもありますよね。
明「もう自分の人生を、出てきた人に全部奪われるようなものですよね。
でも、最近、2人目を産むか悩んでいる方から、今いる子どもの子育てだけでも大変なのにどうしたらいいか、という相談を受けることがあるのですが、早く赤ちゃんとふたりっきりの状況を変えた方が楽ですよっていうふうにお伝えしています。
私は3人目が生まれて物理的に本当に余裕のなくなった時よりも、子どもがひとりしかいなくて時間的には多少は余裕があった時の方が何億倍もつらかったんですよね」
「まさか自分が」という落とし穴
――熱中症なども、なったことがないと、かかっているのに気づくのが遅れて重症化することがありますが、育児ノイローゼも同じで、なったことがないとなかなか気づけないのではないでしょうか。
明「そうですね、まさか自分が、と思いました」
――本の中では“ホルモンのせい”とわかったら腑に落ちた、ということが書かれていましたが、それに気づくまでは、なんだかわからないけれどつらい時期が続いたんですよね。その状態はどのくらい続いたんでしょうか。
明「…もうずっとだったんじゃないかなあ。なんでこんなに自分の性格が悪いんだろうって」
――ご自分のですか?
明「出産後、数週間して、友達がお祝いに来てくれるってなった時も、来ないでほしいって思っていました(笑)」
――まさに“マタニティ・ブルー”の時期ですよね。
明「本当にあの頃は普段とは違う自分でしたね。冷静になると、どうしてあんなこと言っちゃったんだろう、と反省するんですが、その時はどうしょうもなくそういう気持ちがこみ上げてくるんですね。つらいんですけど、自分ではどうしようもできない…ホルモンですよね(笑)」
――明日香さんは若くして出産されたので、まわりのお友達はまだ独身の方も多かったのではないでしょうか。
エッセイのなかに、独身時代の友達からの「飲みに行かない?」っていうお誘いのメールのことが書いてありました。以前からの友達とのなにげないズレがこたえたこともあったのでは?
明「そうですね。相手は全然悪気があって送ったメールではなかったんですが、それがエッセイに書いた“雨のベランダでぼーっと立ち尽くしていた”事件のきっかけになったことはたしかです(笑)。
今は自分の仕事に誇りを持てるようになってきたのであまりないですが、当時は、新入社員としてがんばっている友達のSNSなどを見て、落ち込んだりすることもありました」
――ちょうど同い年のお友達は入社した年に、明日香さんは子育てを開始されたんですよね。
明「友達が仕事で海外に行ったりしている時に、私は家で子どものことをしていただけなので、社会のことは何もわからないし、私はいったいなにをやってるのかなあ、なんて思っていました」