外食、中食は母親以外の味を知る、味覚を育てる絶好のチャンス
――外食の捉え方についても気になっていたんです。著書の中では、中食(お惣菜などを買ってきて食べること)や外食について罪悪感を感じる必要はないと仰っていますよね。これは「味覚を育てるために、薄味を心がける」とは反するような気がするのですが…。
とけいじ:確かに、外食や市販のお惣菜は味が濃くなりがちですよね。中食の場合は、”和え衣”のというのですが、たとえばお惣菜の野菜炒めに大根おろしを入れてみる、ポテトサラダにヨーグルトを混ぜてみる、など素材を1品足して塩味を中和させる、外食するときはメニューが偏らないように…と、気配りすることは必要です。
ただ、外食や中食自体は独自のメリットもあるということを覚えてもらえると嬉しいです。
実は好き嫌いの多い子って、お母さんの味しか知らないために、他で食わず嫌いをしているっていうパターンもすごく多いんですよね。
色んなものを食べて食経験を豊富にすることが味覚を育てる方法だとお話しましたが、外食や中食も、家庭では食べない味に挑戦する、お母さんとは違う作り手の味を味わうという意味で非常に有意義なんです。
仕事や家事育児で疲れているときに、お惣菜を買ってくるだけでも気が楽になりますよね。それを無理に「手作りしなきゃ」って思って作っても、食卓に料理を並べるころには親が疲れ切ってもう試合終了という状態だったら、食事を楽しむ余裕すらなくなってしまいます。
そんなとき、お惣菜を買ってきたら、作る負担が減った分、「いま、食べているものは何かな?」とか「どんな味がする?」など子どもに話しかける余裕も生まれるかもしれませんよ。
これからの時代、親が子どもに伝えたいのは「いかに食事から楽しみを得るか」
――その視点はすごく新鮮ですね。外食や中食の選択肢も増えている中、「子どもの食事は手作りじゃなきゃダメ」って罪悪感を持っている人たちにぜひ知ってもらいたいです。
とけいじ:食の未来を考えてみたとき、これから先、お母さんが栄養バランスを考えて食事を作る、という機会はどんどん減っていくと思うんです。
外食だって発達しているし、栄養バランスの取れた料理が作れるような材料がすべて入ったキットだって発売されているし、将来的には子ども用のサプリも充実していくと思います。
栄養や健康はアプリが管理してくれるでしょうし、バータイプの完全栄養食品で1日の栄養が賄える時代も来ている中で、親が子どもに伝えてあげられるのは、「いかに食事から楽しみを得るか」という文化的な側面なんじゃないかと思っているので、私は心をはぐくむものとして食育を捉えています。
――娯楽としての食、という印象ですね。
とけいじ:大人だって、お弁当をオフィスで食べるか、天気のいい公園で食べるかで心持ちが変わることがありますよね。
特に子どものうちは家でお母さんと二人のときはあまり食べないけど、公園に行ったら食べた、おばあちゃんの家なら食べた、ということもありますよね、それは食事の”味”より雰囲気や環境で楽しんでいるという証拠。
家でお母さんと二人で食べる状況を退屈に感じているなら、お弁当箱につめて外でたべてみたりシチュエーションを変えてみるだけでもいいかもしれません。食の記憶を楽しいものにするためにも、あまり気負わないでいられればなと思います。
まとめ
この日のお話で最も興味深かったのが「食の未来」について。母親が料理を作る機会が減っていく、と聞いて、楽になっていくならその流れに乗りたい!と思ったものの、サプリやバーで栄養を賄う、という点については抵抗を感じていることに気づきました。
子育ての常識は時代によって変遷することは理解しているものの、「自分はサプリを飲んだことがないから、子どもにも必要ないだろう」と、栄養面での常識についてはアップデートできていなかったように感じます。
一方で、外食を活用すれば味覚を育てることができるというのは、嬉しい発見。食育を柔軟に考えられるきっかけになりそうですね。
【取材協力】とけいじ千絵さん
フードアナリスト/食育スペシャリスト
1級フードアナリストR。協会認定講師であり、「審食美眼(=食に対する審美眼)を磨き、彩りある食生活を」をモットーに、『審食美眼塾』を主宰する食のスペシャリスト。
企業の商品開発、飲食店コンサル業務を経て、「味覚」に特化した新しい食育に取り組む。セミナー講師、保育施設給食監修をはじめ、各種メディアで活躍中。
著書『0~5歳 子どもの味覚の育て方』『子どもの頭がよくなる食事』が好評発売中。