老後資金の形成は、「貯める」「増やす」「稼ぐ」をバランスよく
老後資金に必要な金額がインフレによって高騰したとしても、我々が備えていくための手法は基本的に変わりません。
老後資金を「貯める」・「増やす」・「稼ぐ」という、3つのアプローチを、自分の家庭の状況に合わせ、バランスよく組み合わせていくことが必要です。
以下で、それぞれのアプローチについて解説していきます。
貯める
これは単に生活を極端に切り詰めるということではなく、家計のムダを見直して「資産運用に回せる余剰資金」を計画的に生み出すことと考えていただきたいです。
現在の家計状況にもよりますが、筆者がこれまでご相談を受けてきた経験からすると、通信費やサブスクリプションサービスなどの固定費の見直しや、各種の民間保険を最適化することで、毎月数万円の余裕を生み出すことは十分に可能です。
逆に、食費や光熱費、趣味にかかる費用を削りすぎることは決しておすすめできません。身体と精神の健康状態を損ない、将来的にかえって多くの医療費などが必要となる場合が多いからです。
まずは家計の現状を正確に把握し、無理のない範囲で支出をコントロールする「家計管理の基礎体力」をつけることが重要です。
増やす
インフレ時代において最も避けるべきは、「すべての資産を現金・預金だけで持っておくこと」です。
仮に物価が毎年2%ずつ上昇していく(年間インフレ率は2%)とすると、現在にある「1000万円」のお金(現金)の価値は10年後には「約820万円」まで実質的に目減りしてしまいます。
同様に年間インフレ率が3%と仮定すると、1000万円の現金の10年後の価値は「約744万円」となり、現金の額面は減らなくても、買えるモノやサービスの量が減ってしまうのです。
このような「資産額の実質的な目減り」を防ぐために、一般的な国民でもある程度の「投資」をすることは必須になりました。
新NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)といった税制優遇制度を最大限に活用し、余裕資金を「投資」に回して、インフレ率以上の利回りで運用することが重要です。(近年は銀行の普通預金にもわずかに金利がつくようになりましたが、インフレ率以上に増えるようにはなっていません)
全世界の株式などに分散投資し、長期間にわたって積み立てていく「長期・分散・積立」の投資手法は、短期間での大きな利益は期待できないものの、時間を味方につけることで着実な資産形成が期待でき、老後資金の実質的な目減りを抑える効果があります。
手元の預金額から、当分は使う予定のない部分を投資に振り向け、お金にも働いてもらう仕組みを作りましょう。
稼ぐ
かつてのように「60歳で定年退職し、その後は一切働かず、年金と貯蓄の取り崩しで暮らしていく」というモデルは、長寿化とインフレの進む現代では非常に困難になってしまいました。
そこで重要になるのが、現役引退後も「無理なく、長く働き続ける」という選択です。週に2~3日、1日あたり4~6時間程度の「ゆるい働き方」であっても、月に8万円程度の収入を得ることは十分に可能です。
もし月に8万円稼ぐことができれば、前述の「毎月8万円の赤字」を相殺でき、資産を取り崩すスピードを劇的に遅らせることができます。
また、定年以降も長く働くメリットは、経済的な部分にとどまりません。社会とのつながりを持ち、誰かの役に立っているという実感は、老後の生活にハリと生きがいを与えてくれます。
健康寿命を延ばす意味でも、自分に合った働き方を見つけ、細く長く「稼ぎ続ける」ことは極めて重要です。
「安心」ではなく、「納得」できる老後計画を
読者の皆様の中には、「老後のシミュレーションをすればするほど、必要な額が大きくなって不安が増すばかりだ」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
ここでファイナンシャル・プランナーとして強調しておきたいのは、老後のライフプランを立てる目的は「老後の100%の安心」を手に入れることではない、ということです。
「ライフプランのシミュレーション」を仕事にしていながら申し上げるのも変ですが、未来に何が起きるのかは、誰にも分かりません。
インフレがどこまで、どのレベルで進むのか、我が国の公的年金制度や医療制度はどのよう変化していくのか、そして自分自身やパートナーがいつまで健康で働け、何歳まで生きるのか。どれだけ綿密に計算し、多額の資産を準備したとしても、不確実な要素が残る以上、「絶対に安心」と言い切ることは不可能です。
私たちが目指すべきなのは、「安心」ではなく「納得」できる計画を作ることだと、筆者は強く思います。
「世間が、老後には2000万円必要だと言っているから、65歳までに2000万円を貯める」というような、他人まかせの曖昧な理由ではなく、
「自分の家庭の生活費はこれくらいだから、年金受給額と差し引きすると、月に〇万円不足する」
「その不足分を補うために、〇歳まではこれくらいのペースでどのように働き、余裕資金のうち〇万円は投資で運用し、◯歳ごろから取り崩し始める」
というような、自分自身の価値観と具体的な数字に基づいた「納得のいくシミュレーション」を描いていきましょう。もちろん、そのシミュレーションはその時どきの状況に合わせて、定期的に見直し続けていくことも必要です。
老後資金に不安があるのであれば、まずはご自身の家庭の現状を把握し、具体的なシミュレーションを行ってみることをお勧めします。
現在の生活費、退職金の予想額、年金の受給見込額などを書き出し、将来のインフレ率も加味して、ご自身の家計の「長期計画書」を作ってみてください。専門的な計算が難しければ、お近くのファイナンシャル・プランナーを頼っていただくのも良いでしょう。
最後に強調したいのは、お金は「使うこと」で始めて価値が生まれるということです。
将来の不安にとらわれるあまり、現在の生活を過度に切り詰め、今しかできない経験や家族との大切な時間を犠牲にしてしまっては本末転倒です。老後に備えることはもちろん大切ですが、同時に「今の人生を、いかに豊かに楽しむか」という視点も失ってはいけません。
「老後2000万円問題」という過去の言葉に踊らされることなく、ご自身の人生のゴールを見据え、将来に必要な金額をしっかりとシミュレーションすること。
そして、「貯める・増やす・稼ぐ」を実践しながら、現在の生活も十分に楽しむことの両立を目指し、ご家族で話し合いながら、あなただけの「納得できる老後計画」を作り上げていただきたいです。
【執筆者プロフィール】
山田圭佑(KYお金と仕事の相談所所長)
キッズ・マネー・ステーション認定講師、国家資格キャリアコンサルタント、ファイナンシャルプランナー技能士2級・AFP、琉球古典音楽野村流伝統音楽協会歌三線師範、八重山古典民謡保存会歌三線教師
東京都出身。大学入学と同時に沖縄県へ移住。大学卒業後、沖縄県庁にて18年間奉職した後にキャリアチェンジ。現在はフリーランスのキャリアコンサルタント・ファイナンシャルプランナー・歌三線師範として幅広く活動。2022年7月に「KYお金と仕事の相談所」を開設。所長を務めている。



















