日常の様子を描く「風俗画」の起源は古代!

さて、描いた時代の社会の状況や世相を反映している「風俗画」。ヨーロッパの巨匠たちが絵筆をとる遥か昔。古代エジプトや古代ギリシャですでに描かれていました。

一番最初のプロローグ1<風俗画の起源>のエリアでは、オストラコンと言われる陶器や石の欠片に雄牛と牛飼いの姿が描かれたものや、水汲みの女性の姿が描かれた壺、婦人部屋の情景が描かれた陶器の化粧箱などを展示。古代の日常風景を少しだけ垣間見ることができます。

プロローグ2では絵画のジャンルでどう優劣が付けられていたかを解説。ルネサンス期、古代史や神話など、学識を要するものを描くべき、という風潮があり、絵画でも一番の頂点は「歴史画」だったそう。その次は「肖像画」「風景画」「静止画」と続いていき、ジャンルの名称すらなかった「風俗画」は底辺。

しかし、デポルトの描く、衣服や毛など繊細な質感が描かれた圧倒的な「肖像画」の迫力、「静止画」であっても、そこに精神性や五感の表現を含ませたボージャンの作品、その場の空気感まで感じ取れるようなル・ナン兄弟の「風俗画」など、ジャンルによる優劣を感じさせない作品たちを見ることができます。

さまざまな職業、さまざまな美女たち

クエンティン・マセイス《両替商とその妻》1514年
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Gérard Blot / distributed by AMF - DNPartcom
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ《物乞いの少年(蚤をとる少年)》1647-48年頃
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Stéphane Maréchalle / distributed by AMF - DNPartcom

商人や農民など働く人々をテーマにした第1章からは、鳩売りや魚売り、両替商に兵士など、当時のさまざまな職業が描かれています。

特に面白く目を引くのが「抜歯屋」の絵。当時は「抜歯屋」をやるのに、特に歯医者の資格がいらなかったそう。道端で目を見開き、歯を抜かれることに怯えた表情をみせる男性。その周りには野次馬が集まっていますが、よく見ると歯を抜いている隙に、男性の財布やアヒルを盗もうと密かに手を伸ばしています。

実は「抜歯屋」とみんなグル。フランスでは「歯抜きのように嘘をつく」ということわざがあるほど、こんな詐欺が多かったようです。

他にも人をだます職業を描く中で「女占い師」も流行ったテーマとして、2点展示されています。

また、女性はというと、家事に勤しむ姿を描かれているものが多く、“リンゴの皮をむく様子”はオランダで描かれる典型的な良き女性像なんですって。