おっ、これまた定番のレバー。「血肝」です。


「ミディアムレアに焼き上がりながら硬くない仕上がりで、鶏の中で最もジビエのように濃厚なレバーのコクと甘み。素晴らしい……。これは『エル・マセット2008』と合わせます。フランスでもスペイン国境に近いペルピニャン市街近郊で作られた赤。クレーム・ド・カシスのようにとろりとよく熟した果実味と、ほろ苦さやスモーキーさがあるローヌ品種に、カベルネ・ソーヴィニョンも少し加えて上品に引き締めたワインです」


なんだかもう、フランス料理を食べている気分です。ところでこちらのように、ソムリエがいる店ではワインはおすすめに従ったほうがいいんですか?

「当然。だってお店の料理を一番知っているわけですから。でも自分の好みや気分は伝えるべきですよ」

橋本さんから言われると、説得力があります。あとはお野菜。しいたけですね。輝いてますねー。


「フランスのサヴォワ地方の代表的な土着品種であるジャケール100%の『ヴァン・ド・サヴォワ アビーム』です。このワインにある、石や砂を舐めた味を連想するような「ミネラル感」がシイタケの淡い味わいにもあるんです」


 

■1本で通すとしたら?

似た者同士ですね。面白いなあ。とても豊かな気持ちになりました。でも普通の焼き鳥屋さんではこんなにワインが無いし、予算的にもいろいろ変えられないかもしれません。

「今まで紹介してきたのは、似た者同士の補完型でしたね。もうひとつ、食べ物の味をワインが洗い流して口中をさっぱりさせる、リフレッシュ型があるんです。これがシャンパンなどのスパークリングワイン。1本だけならこれでもいいですね。何にでも合いますよ」

そうか、ビールと一緒の考え方ですね。

「そうです。洗い流して食欲をかき立てるわけです。焼き鳥に確立されたパターンは知られていないので、あるいは守備範囲が広いロゼで通すなら全然合わないことはないですよ。焼き手の腕が良くて、ある程度常連の店ならワイン1本を主役に、その風味の変化に合った構成で焼いてもらうのもいいでしょう」

面白いですね。意欲的な焼き手なら、がんばってくれそうです。
最後にお聞きしたいのですが、普通は橋本さんみたいにワインに詳しくないですよ。たくさん品種があって覚えられないし。これはどうなんでしょう。

「フランスでもね、一般の人は同じだから安心してください。だいたいがお気に入りの地ワイン1本しか飲んでないですから。料理に合わせてワインを飲むというのは、とても贅沢なことなんです。だからそういう機会があったら、ソムリエさんと相談しながら思いっきり楽しめばいいし、普段ならお店にある飲み物で少し相性なんか考えながら食べてみればいいのではないでしょうか」

なるほど。やってみたくなりました。どうぞみなさんも、焼き鳥とワインを楽しんでください。まずは「色を合わせる」でチャレンジ!

<今回のワインリスト>
「さび焼き」 グロッサー・サッツ(ミュラー・グロスマン)2010年
「せせり」 ルバイヤート 甲州樽貯蔵(丸藤葡萄酒工業)2010年
「かしわ」 ブルゴーニュ グラン・エルヴァージュ(ヴェルジェ)2009年
「丸ハツ」 ルバイヤート ルージュ樽貯蔵(丸藤葡萄酒工業)2006年
「つくね」 ブルゴーニュ ピノ・ノワール(パラン)2009年
「血肝」  エル・マセット(ドメーヌ ラファージュ)2008年
「シイタケ」ヴァン・ド・サヴォワ アビーム(フィリップ ・ラヴィエ)2010年

【店舗情報】
乃木坂 鳥幸
東京都港区赤坂9-6-30 乃木坂プレース1階
03-6434-0448
定休日 日曜

1965年東京生まれ。ぴあ株式会社グルメ統括プロデューサー兼『東京最高のレストラン』編集長。主な編集作に『いまどき真っ当な料理店』(田中康夫)、『一食入魂』(小山薫堂)、『宮部みゆきの江戸レシピ』、『行列レストランのまかないレシピ』(森脇慶子)など。2001年にプロによる完全実名評価本「東京最高のレストラン」を創刊。