緊急事態宣言のあと、ご存知のようにほぼすべての飲食店が危機に瀕しています。
東京の飲食店を20年に渡ってガイドしてきた書籍『東京最高のレストラン』としては、実際今何が起きているのか、どうすればいいのか? そのリアルな生の声をお伝えすべく、浅妻千映子さん、小石原はるかさん、松浦達也さん、マッキー牧元さん、森脇慶子さんを迎えて、名物の座談会を急遽、開催しました。
テイクアウト情報からこれからの在り方まで、話題は盛りだくさんです。今後の過ごし方、楽しみ方の参考になれば幸いです。
*この座談会は2020年5月5日にZoomで行われました。最新の情報は各店舗までご確認ください。
イートイン、“三密”は避けられる?
小石原 何からお話しましょうか。テイクアウトを取りに行ったらイートイン営業もなさっていて、そこが想像以上に“三密”でちょっとドキドキした、とか。そういうのはまずいですよね(笑)。
大木 いきなりそこですか。
松浦 おそるおそる覗いたら、思わず腰が引けてしまうような店もありますよね。人気店、繁盛店のなかにはソーシャルディスタンスが取り切れていない店も……。特に下町とかに多い気がします。
大木 え? 席の間隔を空けてないんですか。
松浦 平時よりは客が来ないので、最初は空けているんですが、混んでくると密になっていくんです。
小石原 たとえば、馴染みのお客さんが来てくれたら、つい入れちゃうのが人情ですよね。
大木 断わりづらいですもんね。『TAMA』もそれが危険で営業できないと言ってました。
浅妻 緩い店はありますね。お弁当を取りに行ったときも、「ああ、お弁当を作るなら手袋両手して欲しいし、マスクもして欲しい」みたいな。私はちょっと神経質なので。若干、そういう感じがする店はあります。
小石原 お店によって認識の差は出始めてますね。
浅妻 テイクアウトに行っても、「外で待ってください」っていうお店と、「あんまり気にしてません」みたいなところと分かれますね。
買いに行くこちら側の意識もかなり違うと思うので、意識の近いところ同士だと気持ちよくテイクアウトできるのですが、マッチングが上手くいかないと、若干気になってしまいますね。おうちに帰ってもドキドキしながら食べて。良かった、2週間たった、みたいな(笑)。
小石原 気温も湿度もどんどん高くなってますから、もっと気を付けてと思うことはあります。
浅妻 皆さんの意識と違うかもしれませんが、私みたいな神経質なタイプも、おそらく少なからずいると思うので。
松浦 このご時世、作る方にはできればマスクはしていただきたいですよね。
浅妻 どうしても気になった店のは、おうちに帰ったらあの、77(ドーバー パストリーゼ77。多くの飲食店で使用されている、食材にも直接噴射できるアルコール除菌剤)をかけちゃいますもん、お弁当に。
松浦 分かります。世の中がこれほど気を使っているのに、目の前で全然気を使っていない所作を見せつけられちゃうと辛いですよね。
名店それぞれの“テイクアウト事情”
大木 でも、衛生管理って飲食店の基本ですよね。
小石原 食品衛生責任者の資格を取る時に、一通り学ぶことですよね。
松浦 あれ、1日講習で取れますし、講習内容もかいつまんでますから、衛生の知識の有無のものさしにはならないかも……。
浅妻 性格がちょっと出るのかもしれない。
松浦 ただ最初はユルかった飲食店でも、最近は気を使って厳しくなってきていたり、世相を反映しているところはありますよね。
テイクアウトに移行した店でも、当初は店内に好きに入れていたけれど、入り口にテーブルを置いて、そこで注文を受けるようにするようになったり。4月中旬くらいまでは店内に入り放題だった店でも、GW前あたりから入口の結界を強化した店は増えましたよね。
浅妻 『falo』は初期のころからしっかりやっていて安心感がありました。
小石原 そうでしたね。『マルディグラ』もキッチリしていますね。
浅妻 マルディグラのfacebookを見ていると、しっかりしているなと感じます。商業施設のテイクアウト料理の監修をされているので、ああいうところも衛生面には厳しいでしょうから、自ずと意識が高くなるのかもしれません。
松浦 マルディグラは、テイクアウトも入れ替え制ですもんね。
大木 だから、普段からちゃんとしているところは、やっぱりまともですよね。
松浦 大手外食グループの経験のあるシェフは、しっかりしていますよね。
大木 なるほど。
松浦 新井薬師の『マロロガ バワン』は『エリックサウス』のご出身じゃないですか。あそこもやっぱり、店内で待てるのは1人だけ。「後の方は外でお待ちください。できれば電話予約してください。できあがり時間をお伝えします」という感じになってました。
小石原 『酒井商会』は現在は、デリバリーとテイクアウト体制ですね。本当はもう開いているはずの二号店のためにスタッフを新たに雇っているので、そのマンパワーを活かしてデリバリー対応ができているらしいです。
松浦 そうやって雇用を維持されるのは、素晴らしいですよね。『ラ・ブリアンツァ』の奥野シェフもすごいですよ。
ちょうどたまたま取材に行った時に、「デリバリーなんか絶対やらないですよ。うちに入ってきてるスタッフはちゃんと調理師学校を出て、料理をするために入ってきているのに、そいつらにデリバリーさせるだなんてありえない!」と熱く語った翌日にデリバリーを始めてました。
一同 (笑)。
松浦 経営者として、さすがだなと思いました。
小石原 切り替えの早さは大事ね。
松浦 本当に大事ですよ。正体のわからないウイルスが相手で、「正解」が毎日変わる。基本となる衛生観念を持った上で、情報と対策の上書きをバンバンしていく必要がある。皮肉でもなんでもなく、ホントに奥野シェフのアップデートっぷりは、見事でした。
大木 そして低糖質パンを売り出して大ヒットですからね。あのポジティブさは素晴らしいです。
小石原 デリバリーといえば学芸大の『リ・カーリカ』におつまみセットとステーキフリットを頼んでいるんですが、オーナーの堤さんが持ってきてくれるらしい。
松浦 そのパターン結構ありますよね。『パーラー江古田』の原田さんとかも確かそうだったような……。一度、買いに行ったらいらっしゃらなくて。インスタを見たら方角を決めてご常連向けにデリバリーをされていた。
小石原 そうそう。方面を固めて「5〜6軒回ります」とかね。
浅妻 テイクアウトからデリバリーへの以降も早かった『ラス』の兼子さんの、「ゴキブリ精神で、しぶとく素早く、見栄を張らず、泥臭く、無駄を削ぎ落とす。もはやプライドもクソもありません。真の強さが問われていると言い聞かせ、文句言わずに頑張ります!」というFBもかなり心を打たれましたね。
そして、兼子さんは以前からデパートでサンドイッチやお弁当を売っているから、テイクアウト上手。マルディグラの和知さんもですが、こうした店の外での販売経験やケータリング経験のある方々は、今回、それがとてもプラスになっているんだろうと感じます。