そしてツアー中には、自身のラジオ『スバラジ』(NACK5)でも話していた、「地方のレコードや巡りをしたい」という希望を実現。クロマニヨンズを敬愛してやまない彼のチョイスの中には、エルモア・ジェイムスのようなブルースやイーグルスの『ならず者』、ジャケ買いしたというT-REXなどが入っていた。
それはまるで、『味園ユニバース』のポチ男こと茂雄のようにも見える。映画では、「茂雄くん、クズやったけど歌だけはうまくてな」というセリフが出てくるが、茂雄も地元で路上ライブをしたり、海外まではいかないまでも、近くのレコード屋に入り浸り、試聴に試聴を重ね、気に入ったレコードを買ったりしていたんじゃないかと思う。
でも、あの日のソロライブで私が見たのは、確かに渋谷すばるだった。そう、確かに渋谷すばるだったのだが、それまでに関ジャニ∞としては経験できないさまざまなことをやってのけ、そのたびに感じたことを忘れず、ここまでの自らの集大成を見せようとしている彼だったのだ。だから、泣けたのだ。
渋谷すばるが「アイドル」にこだわる理由とは?
正面切って自分をアイドルと名乗り、「夢を売るのがアイドルとされてるなら、その中に一人ぐらいリアルを伝えるアイドルがいていいんじゃないすかね!」と叫ぶ姿、そこには「宣戦布告」のようなものを感じる。
かつて、嵐の二宮和也は、「自分は役者でもない。歌手でもない。アイドルだ」と話していた。その理由は「アイドルの方が幅広く活動できるから」。つまり、きらびやかな衣装を着て歌うだけでなく、いろいろな場で活躍できるということだ。
渋谷の場合は「アイドル」というバイアスのかかった見方を払拭したいという想いが大きいと思う。そして彼は映画の世界へと飛び出し、山下敦弘監督、二階堂ふみ、大阪の伝説のバンド・赤犬のファンなど、関ジャニ∞をあまり知らない人たち、さらには国際映画祭への出品が続いたことにより、関ジャニ∞を知らない海外の映画ツウの人たちの目に触れることにもなった。
また、いくつかの映画祭では主演男優賞を受賞し、国内外で俳優・渋谷すばるの評価は上がっている。
昨年のツアー「関ジャニズム」の前に開催された、関ジャニ∞とスタッフの決起集会の中で、あるスタッフが「個々の活動が地に足をつけるころなのかなと(中略)。そこでの実りをグループに戻していくという時期」と語っていた(「関ジャニズム」ツアーパンフレットより)。
渋谷にとっての今後の「個々の活動」が映画なのか、ソロツアーなのか、それは分からない。だけど、エイターには何の不安もないはずだ。どこへ行っても必ず戻ってきて、関ジャニ∞がもっと大きくなるための何かを還元してくれる。
ツアーの裏側をまとめた特典映像を見ていると、渋谷はステージの演出をし、バンドをひとつにし、そのうえでボーカリストとして歌っている。かつてジャニーズのバンドを従えて行った渋谷のライブを見て、同じメンバーの錦戸亮は、社長に「あの人、ソロデビューさせたって下さい」と言ったそうだ(∞祭パンフレット『Dear Eighter』より)。
その時点でソロデビューしていたら、関ジャニ∞そのものも今と違っていたかもしれない。そう考えると、ソロとしての活動を始めるタイミングは、33歳だったその時がふさわしかったのだろう。