絵本には、不思議な力があります。パパやママが言い聞かせても納得できないことも、絵本を読むうちにすっと理解できるようになることも、よくありますよね。
それまでひとりっ子だった子どもにきょうだいができた時、パパママがいちばん心配するのは、上の子どもが赤ちゃん返りをしないか、ということだと思います。それはしますよね、どんな子でもするでしょう。
ですが、それと同時に子どもの心のなかには、お兄ちゃん、もしくはお姉ちゃんになれてうれしい、という気持ちだってちゃんとあるのですよね。
きょうだいをテーマにした絵本はけっこうあります。中には、子どもにきょうだいができる心がまえを教えるつもりで読んだ本に、親の方が思いのほか感動してしまって泣いてしまった、という名作も多いんです。
今回は、そんな絵本を5冊、ご紹介します。
『ちょっとだけ』
きょうだい絵本といえば、まず出てくるといっても言い過ぎではないほどテッパンな絵本を、まずご紹介します。
『ちょっとだけ』というタイトルのこの絵本の主人公は、なっちゃんという女の子。
きょうだいができて、それまでママにやってもらっていたことも、ちょっとずつ自分でできるようになってきます。
お買い物に行くときはママのスカートを「ちょっとだけ」つかんで歩きます。ママは赤ちゃんを抱っこしているから、手がふさがっているんですね。
初めて自分で冷蔵庫から牛乳を取って、「ちょっとだけ」コップにつぐのに成功しました。少しこぼしてしまったけど、なっちゃんは得意そうです。
ページが進むうちに、なっちゃんの表情がちょっとずつさみしそうにみえてきます。あれ、大丈夫かな、と思った頃に、大どんでん返し、こうきたかーっという展開に親の方が号泣する危険のある絵本です。
作者の瀧本有子さんは、とても子どもの気持ちがわかる人なのだと思います。なっちゃんのママの表情を見ていると、それがよくわかります。
なっちゃんにだって、下の子ができて赤ちゃん返りをすることもあるかもしれませんが、そういった場面を描くよりも、ちょっと背伸びをしてでも、いいお姉ちゃんになりたい、ママを助けたい気持ちをすくいあげて、お話にしてくれています。
『あかちゃんのくるひ』
今でも多くのファンを持ついわさきちひろさんが、絵だけでなく文章も書いている絵本です。
生まれたばかりの弟が、産院から帰ってくるのをそわそわどきどき、待ちわびる女の子の様子が描かれています。
赤ちゃんが来るのがうれしい気持ちもあるのですが、どうやってその気持ちを表現したらいいか、女の子は戸惑っています。自分にはもう小さい赤ちゃんの帽子をかぶってみたり、段ボールの箱のなかに隠れてみたり。
そわそわする気持ちが痛いほど伝わってきます。
きょうだいのできる子どもに、赤ちゃんを迎える準備として読んであげてもいいと思いますが、読んでいるママの方が、絵本の女の子のけなげな様子に、たまらなくなってしまうかも。
ページをめくるごとに、あわあわとした水彩で描かれる絵に、子どももママもうっとりしてしまいそうです。
『あさえとちいさいいもうと』
主人公は妹のいる女の子、あさえ。妹がお昼寝している間に、ママはお使いに出かけました。そんなときに限って、妹はお昼寝から早く起きてしまいます。
ママがいなくても妹をさびしがらせないようにと、張りきるあさえ。ところが、妹のために夢中になって地面に絵を描いているうちに、妹は姿を消してしまいます。
どうしよう・・・! あさえの気持ちが伝わってきて、読みながらハラハラしてしまう場面です。
絵本なのだから、最悪の事態は起こらないだろうと思いつつも、ドキドキしてページをめくります。親でもそうなのですから、子どもはもっと心配になってしまうかもしれません。
淡々と読んであげる方がいいかもしれませんね。
そして無事、妹が見つかり、ホッとして思わず妹をぎゅっと抱きしめるあさえと、事の重大さがわかっていないまま、抱きすくめられる妹の対比がとてもリアル。
文章は筒井頼子さん、絵は林明子さん、そう、『はじめてのおつかい』のゴールデンコンビによる絵本です。子どもらしい子どもを描かせたらピカイチの林さんの絵を、存分に楽しめる絵本でもあります。