青空文庫、読んでますか?

 

青空文庫とは、おもに著作権切れになった文学・文芸作品を自由に閲覧できるwebサービスです。ボランティアの手によって、膨大な数の作品を誰でも無料で楽しめるようになっています。

今年は新たに谷崎潤一郎、江戸川乱歩などの有名作家による作品が青空文庫入りして話題になりました。

 

しかし、ひとつ問題があります。

 

「結局読まない問題」です。

 

現代人はネットなどのお手軽メディアに慣れすぎてゼリー状の情報しか摂取できなくなっています。いくら無料とはいえ旧仮名使いとか読みづらいし、内容もなんかとっつきづらくて正直まとめサイトとか読んでたほうが楽! アイドル超絶劣化の比較画像とか見てたほうが20倍楽しい! となってしまうのが人情。

 

 

そこで、今回は『屁が出てくる短編小説』に焦点を絞り、「いかにいい『屁』の描写があるか」を基準にしたランキングを作ってみました。

なぜテーマを屁にしたかというと、このサイトを見るような層は屁が好きだからです。

しかし、恥じることはありません。かの文豪、芥川龍之介はエッセイ『続野人生計事』をこのように書き出しています。(以下、旧仮名遣いは現代仮名遣いに直しています)

 

アンドレーエフに百姓が鼻糞をほじる描写がある。フランスに婆さんが小便をする描写がある。しかし屁をする描写のある小説にはまだ一度も出あったことはない。

このように、芥川も屁に興味津々だったことが分かります。それにしてもさすが、芥川。一行目から読者の心をガッシリと掴んできますね。百姓の鼻糞と婆さんの小便を同じ行に配置されたら目を奪われるに決まっています。

 

それでは屁が登場する小説ベスト3をどうぞ。
※屁の話が多くなるので、バランスをとるために爽やかな写真を多数配置しています。

 

 

第三位 太宰治『富嶽百景』

 

「富士には月見草がよく似合う」というフレーズが有名なこの短編。読んだことのある人は、案外多くないかもしれません。

エッセイ風の短編小説で、主人公は太宰本人。峠の茶屋にこもって仕事をしている先輩作家の井伏鱒二のところに行った太宰が、峠から富士山を見たり結婚相手を探したり、いろいろする話です。

太宰のひねくれた価値観が全体に炸裂していておもしろい作品となっています。

たとえば、テーマである富士山に関しても、冒頭から

 

たとえば私が、インドかどこかの国から、突然、鷲にさらわれ、すとんと日本の沼津あたりの海岸に落とされて、ふと、この山を見つけても、そんなに驚嘆しないだろう。ニッポンのフジヤマを、あらかじめ憧がれているからこそ、ワンダフルなのであつて(中略)素朴な、純粋の、うつろな心に、果して、どれだけ訴え得るか、そのことになると、多少、心細い山である。低い。裾のひろがっている割に、低い。

と熱い富士山Disをかましています。そのくせ、十国峠で見た富士が思いのほか頼もしい感じに見えたときには「やっていやがる」と思って笑ったと書いているのも、よくわからなくていいですね。山に対して「やっていやがる」って、何? 誰目線? マネしたい。

 

さて、問題の屁ですが、それは序盤、井伏先生と太宰が一緒に三ツ峠をのぼり終えたシーンで放たれます。

 

とかくして頂上についたのであるが、急に濃い霧が吹き流れて来て、頂上のパノラマ台という、断崖の縁に立ってみても、いっこうに眺望がきかない。何も見えない。井伏氏は、濃い霧の底、岩に腰をおろし、ゆっくり煙草を吸いながら、放屁なされた。いかにも、つまらなそうであった。

こんなに味わい深い放屁シーンがあるでしょうか。

霧と風に包まれた景色の中で鳴り響く放屁の音。その情景が頭にありありと浮かびます。

それにしても、井伏先生もまさか三ツ峠の屁がパブリックドメインの一部として保存され続けることになるとは思わなかったのでは?

 

本文を読む(青空文庫)