『望まぬ妊娠』を減らすため…薬剤師たちが行っている活動とは?
緊急避妊薬を必要とする女性は、決して少なくありません。
そして、『望まぬ妊娠』の可能性は、いつ・誰に・どのような形で訪れるか分からないものです。
緊急避妊薬を必要とする女性のため、そして『望まぬ妊娠』を減らすため、水さんら薬剤師は以下のような活動も行っています。
1. 緊急避妊薬を『BPC医薬品』に
病院の医師が処方する『医療用医薬品』は、次の2つに分類されます。
- 医師による処方を必須とする『処方箋医薬品』
- 医師の処方箋なしでも薬剤師が選定・供給できる『処方箋医薬品以外の医薬品(BPC医薬品)』
緊急避妊薬は『処方箋医薬品』に分類されているため、現状では薬剤師は処方箋を持たない方に交付することができません。
日本は産婦人科への敷居を高く感じている女性がとても多く、『望まぬ妊娠』の可能性があった際もなかなか産婦人科に受診ができず、時間だけが刻々と過ぎていく…というケースは少なくありません。
緊急避妊薬は、必要が生じた際に、速やかに服用する必要があります。
緊急避妊薬の分類を『BPC医薬品』変更できれば、医療用医薬品であっても薬剤師が交付することができます。また、状況に応じて相談に乗り、カウンセリングや、他の避妊方法に関する情報、必要な場合の受診勧奨など、伝えることができます。
緊急避妊薬をBPC医薬品にするため、私たち薬剤師は、キャンペーンサイト『Change.org』にて賛同者を募っています。現在、4000人近くの方が賛同を示してくれています。
2. 学校の保健の授業で避妊の重要性について伝える
日本では、大人が小中高生たちに性に関する知識を正確に伝える場、そしてお互いにオープンに話し合える場があまり存在しません。家庭でも性に関する話題は避けられがちです。
性に関して好奇心旺盛だけど正しい知識を持っていない小中高生たちには、緊急避妊薬について伝える前に、性についてもっと知る必要があります。
「いざとなったら緊急避妊薬があるからコンドームをつけなくていい」となってしまったら、それはとても危険な話です。コンドームは性感染症を防ぐという役割もあります。そして正しく使用すればかなりの確率で避妊できるので、パートナーが妊娠を望んでいないなら男性は必ず使用すべきです。
一方で、コンドームも、破れてしまった、穴が開いていたなどのトラブルで、一年間で100人中18人が避妊に失敗し、妊娠しています。
日本ではあまり知られてはいませんが、人工妊娠中絶は宗教上の理由で処罰される国もあったりします。
そういったことも伝えておかないと、避妊を軽く考えてしまう若者が増えてしまうかもしれません。
妊娠のしくみ、避妊の方法、そして避妊の重要性について、子どもたちにきちんと伝えていくことも、望まぬ妊娠を防ぐためにとても大切なことです。
薬剤師の中には、学校の保健の授業などに赴き、妊娠のしくみや避妊の方法、避妊の重要性について伝える活動を行っている人もいます。
『望まぬ妊娠』を防ぐため、親としてできること
私は水さんにお話を伺うまで、緊急避妊薬についてよく知りませんでした。そういう女性は決して少なくないように思います。
緊急避妊薬の存在を知ることで、緊急時に冷静に対応できる女性が多くなるのではないでしょうか。
水さんは、「望まぬ妊娠、そして人工妊娠中絶は、女性にとって負担がとても大きいもの。それを少しでも防ぎたいと私たちは活動しているが、家庭でも性教育をあいまいにせず、きちんと子どもたちと話し合う機会を持ってほしい。
子どもが妊娠可能な年齢になったら、母親だけでなく父親も話に入り、息子や娘に避妊の大切さやその方法など伝えていってほしい。身近な大人たちのそういう呼びかけが、『望まぬ妊娠』の何よりの抑止力になるのだと思う」ということもおっしゃっていました。
子どもに性の知識を伝えるのも、大人の責任。あいまいにせず、「どのように伝えるか?」「いつ伝えるか?」を、親としてもしっかり考えていきたいですね。
<参照>緊急避妊薬(アフターピル)の分類を『処方箋医薬品以外の医薬品』に変更し、薬剤師が提供できるようにしてください-Change.org
【取材協力】水 八寿裕(みず やすひろ)
株式会社実務薬学総合研究所 教育事業部部長
ふくろうメディカル(個人事業主)代表
東京理科大薬学部臨床准教授
1993年、東京理科大学薬学部製薬学科卒業。同年薬剤師資格取得。
1995年、同大学院修士修了(有機合成化学)。
2011年の東日本大震災発災時に自身の故郷の福島を中心に医療支援を行いともに活動した医療者から「医療の原点」について強い感銘を受けた。製薬MR(医薬情報担当者)出身という視点を生かした薬剤師のありかたを模索している。